中野　後から0.17点差を計算してみると、普段ならしないようなレベルの取りこぼしとか、バランスを崩したとか、本当にわずかなことなんですよね。難しいですね、本番は。

――まさに紙一重でしたよね。「バンクーバーには行けない」と決まった瞬間のことを覚えていますか。

中野　1番滑走だったので、残りの選手の演技を見ながら、これはちょっと無理かなというのがどんどん膨れ上がっていく。頭の中はパニックでした。この先の人生どうしよう、どういう顔をして親のところへ行こうかな、なんて話せばいいのかな、謝ればいいのかな、みたいな。

――あの時、笑顔がなかったですが、謝ることまで考えていたのですか。

中野　でも佐藤先生の奥様が、表彰式の時に言ってくれたんです。「3位なんてすごく立派な順位なんだから、堂々と表彰台に立ちなさいよ」と。それだけはよく覚えています。

落ちこむ中野に、佐藤コーチの奥さんが「堂々と表彰台に立ちなさいよ」と背中を押してくれたという　©Takuya Sugiyama

――普段ならありえないようなミスが本番で出るというのは、フィギュアスケートに限らず、誰の人生にも起こりうることですね。中野さんは、この「0.17点差」をしばらく引きずったそうですね。

中野　スケートを観るのも辛いくらい大変でした。仕事柄、観なきゃいけないこともあったので目にはしていましたけど、直視できるようになるまでに2、3年はかかりました。よく周りからは「時がきっと忘れさせてくれるよ」って言われたんですけど、時が経ってもなかなか忘れないものですね、こういうものは。

日本のフィギュア黄金時代を生きて「周りがいたから」

――中野さんはかつてご自身のことを「あの子はいつも成績を残せないよね、ときっと思われているんだろうな」と語っておられましたが、それは現役時代にずっと抱えていた思いですか。

中野　そうですね。必ず「伏兵」と言われていたので。でも、（安藤）美姫ちゃんと（浅田）真央ちゃんがいる以上、そう言われるのは仕方がない。人気と話題性を持っているのはお二人だと思っていたので、開き直ってできました。

――五輪でもそれ以外の大会でも、1位になれるのは一人だけで、それ以外の人は悔しさを味わうことになります。でも中野さんは、確かに五輪代表にはなれず涙をのんだかもしれませんが、記録以上に記憶に残る選手だったと感じます。ご自分ではなぜだと思いますか。

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