「シートノックのバックサードが怖かったのって、あとにも先にも新庄だけでしたから。監督になってからも、だいぶ長いですけど、まだあれだけの肩持ってる外野手って、見たことないですからね」

　センターの定位置あたりから全身をしなやかに躍らせて、地面に叩きつけるように新庄中堅手が腕を振ると、そのボールは地を這うような高さで真っすぐこちらに向かってくる。一度バウンドすると見せかけて、もうひと伸び。いくらなんでもあの定位置からダイレクトはないだろう……とグラブの手の平を上にしてショートバウンドに備えていると、伸びっぱなしのまんまでグラブに突き刺さる。何度かは手の平を上にして構えたグラブよりさらに上の“手首”に直撃したことすらあった、というから驚いた。

「野球部があんまり練習ばかりで休みもなくてかわいそうだって、学校がロッテの鹿児島キャンプを見に行かせてくれたんですよ、1泊か2泊で。そんときも守備練習なんか見ていて、ほんとプロの人に対して失礼なんですけど、『あれなら新庄のほうが、はるかに肩は強いな』って、みんなで言うとったですもんねぇ……本人も、口にこそ出さんけど、そんなふうな顔してロッテの練習見とりました」

プロ野球スカウトが来た日

　決して、大きなことを言うようなヤツじゃなかったと、西村監督は振り返る。むしろ、やって見せることで自分をアピールしていたという。

「スカウトが見に来るようになってからは、練習試合なんかでも、シートノックのセンターからのバックホームでも、キャッチャーになんか返しませんでしたからね。もう、最初っからバックネット狙い。ものすごい勢いの返球で、ちょうどネット裏のスカウトの人が座ってるあたりを狙って投げて、ネット、ガッシャーン！って言わせてましたよね」

　一方で「足」も飛び抜けていた。

「私の弟がだいぶ、水をあけられてましたからね」

　西村監督は、双子の弟さんと2人で西短付に入学している。

　その弟さんが、その気で鍛えたらオリンピックだって……というレベルの快足の持ち主だった。小学校6年で100m12秒9をマークしたというから、間違いなく“怪童”レベルだ。

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