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JリーグPRESSBACK NUMBER
「じゃあ、やれや!」大久保嘉人がペットボトルを投げつけた日…風間八宏と考える「なぜ日本の指導者は“ヤンチャな選手”に戸惑うのか?」
text by
木崎伸也Shinya Kizaki
photograph byJ.LEAGUE
posted2021/12/31 11:08
J1通算最多の191ゴールとJ1最多のイエローカード104枚の記録を持つ大久保嘉人。今季で現役を引退した
「確か神戸戦だったと思うんですが、前半に嘉人がいつもと違い、どこか集中しきれていないように見えたんですね。そのとき足に痛みを抱えてずっとやっていたんですが、試合前の段階では『足は痛くない』と答えていた。後半に向けて、嘉人に仕事をしてもらう必要があると思いました。
そこで私は嘉人に仕掛けることにした。ハーフタイムに『ヨシト、足が痛いのか』と話しかけると、『いや大丈夫です』。私はすかさず『じゃあ、やれや』と返しました。その瞬間、嘉人は手に持っていたペットボトルを床にバーンと投げつけました。
何の問題もありません。なぜなら、それを計算して声をかけているわけですから。チームが一瞬でピリッとしました。嘉人もスイッチが入ったでしょう。何も知らずにピッチから戻ってきたコーチが、円陣の際に嘉人の肩に手を回して、振り解かれたのはとばっちりでしたが(笑)。
後半、嘉人が2点ゴールを決めて、フロンターレが勝利しました。試合後、嘉人が『すみませんでした。でも、あれ以上は言わないでください』と。私は『言うわけない。おまえと喧嘩しにきたんじゃないんだから。それよりコーチに謝って来い』と伝えました。嘉人はプロ中のプロですよ」
「ヨシトォー! 俺の言うことを聞けるか」
――まさに大久保選手の魅力が伝わるエピソードですね。
「ときとしてエネルギーが溢れ出てしまうくらいじゃなきゃ、あんなに点は取れませんよ。
天皇杯のある試合で嘉人がレフリーにすごくイライラし、延長に入る前のブレイク中にコーチが『ヨシト、レフリーを相手にするな』と言っちゃって。その瞬間、嘉人が主審を指して『あいつさあ!』と怒鳴り、詰め寄ろうとしてしまった。私はがっとヨシトの口をふさいで、汗だくの体を捕まえて『ヨシトォー! 俺の言うことを聞けるか。落ち着け!』と言ったら、嘉人の心臓がバクバクしていて。
延長では落ち着きを取り戻した嘉人が、ゴールを決めました。これがエネルギーなんですよ。私も嘉人を信用しているからできるし、嘉人もそう思ってくれていたと思います。
人間のいろんな感情を出せる。最高の選手だし、最高の人間だと思います」
――エネルギーがある選手を挑発するなんて、普通の監督ではなかなかできませんよ。反発されたら、戦力外にするという監督もいると思います。
「試合に勝つためにやっているわけですから、変に気を遣っても意味がない。態度が理由で、戦力外にするという選択肢自体がそもそもない。力がある選手には、やらせた方がいいに決まっていますからね」
「元ブラジル代表のジョーでも先発から外しました」
――気まずくなる恐れはなかったんでしょうか?