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フランス・フットボール通信BACK NUMBER
《世界最高GK》「頼りになるのは本能だ」EUROで神セーブ連発のドンナルンマがプロ入り後のPK戦でいまだ不敗の理由
text by
フランス・フットボール誌France Football
photograph byL’Équipe
posted2021/12/22 06:00
ヤシン・トロフィー受賞を、フィアンセのアレッシアと自宅で喜ぶドンナルンマ
人々の祝福とサプライズの瞬間
ポンペイの実家に戻る前にローマで祝勝会があった。コロナのことがあるから、パレードをするのは簡単ではなかったけど、53年ぶりのタイトル獲得を祝いたいという熱気は強く感じられた。この喜びを全員で共有したいという思いが伝わってきた。以前は彼らと同じいちサポーターだった僕にはとてもいい思い出だ。本当に感激した。
家に帰ったのはその翌日――決勝の2日後だった。何も考えていなかったし期待もしていなかった。チームのみんなと前の晩に騒ぎすぎてすごく疲れていたから、車の中ではほとんど居眠りをしていた。ところがカステッランマーレに近づくと道路に可動式のバリアが見えて、「いったい何があるんだ?」と思った。そして車が両親の家に近づいたとき、人々で溢れかえっているのがいきなり目についた。友人や知人、親戚……。誰もが僕の到着を待っていた。このサプライズを僕は決して忘れない。
かつての記憶は次々と蘇ってくる。思い出すのはASDクラブナポリ(ナポリのアマチュアクラブ。ドンナルンマは5歳から14歳でミランに移籍する2013年までここでプレーした)で僕の監督をしていたエルネスト・フェラーロだ。《イル・マスター(フェラーロの愛称)》はもうこの世界にはいないけど、彼にはたくさんのいい思い出がある。ひとりの監督というよりも、まるで祖父のように思っていた。常に僕の傍にいて、親身になって僕を支えてくれた。毎朝、家まで僕を迎えに来ては、練習の後で送り届けてくれた。彼と父がいたから僕はここまで成長できた。
僕が成し遂げたことを、ふたりとも喜んでくれたと思う。僕が小さかったころ、ふたりは僕がどうすれば進歩するか真剣に話し合っていた。僕は聞こえないふりをしていたけど、ポジティブな話し合いであることは理解できた。《コーチフェラーロ》は、僕のことを真剣に考えて、その輝くばかりの笑顔で僕を勇気づける言葉をナポリの方言《Cerra cè》(翻訳不能)で繰り返してくれた。彼のような輝かしい人物との思い出を、僕は大切に守っていきたい。
<後編に続く>