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フランス・フットボール通信BACK NUMBER
《世界最高GK》「頼りになるのは本能だ」EUROで神セーブ連発のドンナルンマがプロ入り後のPK戦でいまだ不敗の理由
text by
フランス・フットボール誌France Football
photograph byL’Équipe
posted2021/12/22 06:00
ヤシン・トロフィー受賞を、フィアンセのアレッシアと自宅で喜ぶドンナルンマ
大会のスタートから僕らはこう話していた。
「ひとつひとつの試合のことだけを考えて、センチメートル刻みで勝利を重ねていこう」と。
そしてこんなテーマを掲げた。
「ひとつずつやっていこう。目の前のことだけに集中して、何かを構築する以前にできもしないことは思い描かない」
道筋が出来あがれば、あとはそれをキッチリ辿ればいい。ただそれは僕らの中だけに留めていて、メディアにはいっさい語らなかった。メディアはさまざまな予想を立てた。僕らの可能性に否定的な意見もあった。でもそれがさらなる力を与えてくれた。決勝は8万人のイングランド人が見守るなかでおこなわれたけど、恐れはまったくなかった。むしろ逆にボルテージがあがったし、勝てば国中のティフォジが街に溢れて勝利を祝ってくれると思うと、さらに力が湧いてきた。
PK戦で逆転した瞬間
相手キッカーの分析はあらかじめ済ませていた。でもいざ現実の場面では、頼りになるのは本能だ。キッカーの情報があっても、相手が目の前に立つと本能が違うことを伝える。そして彼が動き始めたときには、自分もどう動くかを決めていて最後の瞬間に考えを変えない。迷いが生じると思うように動けなくなるから。僕はキッカーを詳細に観察して自分がどうするかを決める。
この調子をこれからも維持してPK戦でずっと勝ち続けたい(プロデビュー以来5度のPK戦を経験し5連勝。そのなかにはEURO準決勝のスペイン戦と決勝イタリア戦も含まれる)。でも僕は迷信深いから、自分を《特別なGK》とは思いたくない。チームと自分にとって決定的な瞬間が訪れても、冷静さをずっと保っていたい。
ただ、僕が相手を止めてPK戦に勝っても、それはコレクティブな勝利だ。あくまでもグループが成し遂げたことで、ひとりの人間の力で到達した栄光ではない。
サルバトーレ・シリグから何か有益な助言はあったかって? サルバトーレとはとても親密な関係にある。友人以上の存在で、兄弟のように思っている。何も包み隠さずすべてを話し合っているし、厳しい状況になると常に僕を勇気づけてくれた。彼の存在は本当に大きかった。僕が求めたときには的確なアドバイスをしてくれて……、もちろん具体的には明かすことはできないけれども。