マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
オリックス山本由伸23歳、5年前“ドラフト4位”まで他の11球団は指名しなかった…他球団スカウト「当時177cmでちょっと小粒に見えた」
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byHideki Sugiyama
posted2021/12/10 17:05
今季26試合に先発して18勝5敗、防御率1.39。満場一致で沢村賞に選ばれたオリックス、山本由伸(23歳)
いやあ、とにかく速かった。捕手のミットに突き刺さる速球の球筋は、「光」だった。
その速球がタテに折れて見えるのが、快速フォーク。現在では、その「由伸フォーク」はコンスタントに140キロ後半をマークする。スライダーも滑るなんてもんじゃない。真横に吹っ飛んでいくように見えたから、「大谷翔平」クラスのスライダーなのは間違いない。
同じように驚いたのは、一塁けん制のとんでもないスピードだった。一瞬にして、一塁手のミットを叩いている。出塁しても、これじゃ動けない。
その年も4番かクリーンアップを打つはずの外国人選手相手に、真っ向から胸元を突いて、死球にしない技術と勝負根性にも驚いた。キャンプの味方相手のピッチングから、もう“生き死に”を賭けていた。
楽天「田中」、ホークス「千賀」そしてオリックス「山本」へ
6戦闘って、ヤクルトの制覇に終わった今季の日本シリーズ。
オリックス・山本由伸の最終戦での先発マウンドを見ることができた。
立ち上がりから、150キロ前後のスピードでヤクルト打線を圧倒。2回の3連続奪三振には、相手チームの心が折れたか……と思うほどの支配感があった。
速いし、強いし、球道は乱れない。カットボールはわからないように動くし、フォークなんて、わかっていても打てそうもないように見えた。
1対1の6回、無死から三塁手・宗佑磨、遊撃手・紅林弘太郎が打球を逸して連続失策。山本由伸がグラリと来るとすれば、ここだな……と思ったら、何ごともなかったように、サラッと受け流したから驚いた。
極度の緊張感が続くシリーズ6戦目、宗佑磨は「三塁手」としてのキャリアが浅く、2年目・紅林弘太郎には「プロ野球選手」としてのキャリアが足りない。「だったら、そろそろ疲れが出る頃だよね……」と事情が見えているような磐石の対応。どんな言葉より、後ろで守るバック全員への「ゲキ」になったことだろう。続く、サンタナを二塁ゴロ、鮮やかなダブルプレーで仕留めてみせた。
楽天が強かった頃は「田中将大」がいて、ソフトバンクが優勝を続けていた頃は「千賀滉大」という絶対的な存在がいた。そこに「山本由伸」がオリックスに現われて、プロ野球はまた新たなステージを迎えたようだ。
投げるボールの素晴らしさは、トレーニングの機器やサプリメントがその成長の味方になってくれるが、本物の「エースらしさ」を育む原動力とは、いったい何か。日本シリーズ最終戦、敗れたとはいえ、山本のマウンドさばきは、もう何十年も野球を見てきた者ですら、心震える見事なものだった。
この試合を球場や映像で見た多くの少年、少女たちが「野球もけっしてわるくない……」と、胸躍らせたことも間違いないだろう。
5年後、10年後、「あの日の山本由伸投手を見て……」、野球に心を向けた若者たちが、あちらこちらに現われてくれることを心より願うものである。
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