内定者一覧で目を引くのが、佐々木旭（川崎内定）、安居海渡（浦和内定）、佐藤響（鳥栖内定）の3名だろう。前述した4名に比べても高校時代は無名の存在、全国大会出場経験はいずれもゼロ。佐々木と安居に関しては、県大会の決勝にすら進んだことがなかった。

　この3人を見出したのは、スカウトも兼任する大平正軌コーチだ。面白い選手がいると聞けばすぐに視察に行き、ターゲットにした選手以外の試合にも目を光らせ、隠されたタレントを探し出す。佐々木に関しては、大平コーチが安居を視察に訪れた会場で偶然、試合をしていたことが契機となった。佐々木は当時のことをこう振り返る。

「まさかあの流経大から声がかかるとは思いませんでしたが、絶対に行きたいと即決しました。その後のインターハイで流経大柏が優勝したのを見て、『このメンバーと一緒にプレーしたいな』と思いました。ライバルになれるように戦いを挑みたいなと」

J1王者の川崎フロンターレへ加入するDF佐々木旭（4年）©Takahito Ando

　確固たる思いで名門大に足を踏み入れた佐々木だったが、当初は1年生の紅白戦にすら出場できない時間が続いた。しかし「一番下から這い上がるしかない」とモチベーションを落とさずに努力を重ねたことで、才能が開花。2年夏にトップ下からサイドバックにポジションを移したことをきっかけに一気に頭角を現すと、3年ではゲームを作れる不動の左サイドバックとしてレギュラーを奪取。インテリジェンス溢れるプレーと豊富な運動量はJリーグ王者・川崎のスカウティングに高く評価されている。

　職人気質の安居は、自分の意思をきちんと言葉でもプレーでも主張できるのが強みのプレイヤーだ。ボランチとして対人の強さとボール奪取力、展開力を駆使し、どんな時も冷静に周りに声をかけながら全体のバランスを保つことができる。昨シーズンから流経大の柱としてフル稼働し、J1開幕スタメンを飾った“ボランチの先輩”伊藤敦樹に続いて浦和内定を勝ち取った。

　高校では茨城県リーグが主戦場だった佐藤は、全国レベルのタレントが揃う流経大において1年生の頃から出場機会を得た。「入学当初は付属出身の選手で固まっていたので、ちょっと怖かったです」と言いながらも、ずば抜けたフィジカルを駆使しながら球際の強さを発揮。右サイドのチャンスメーカーとしてだけでなく、フィニッシャーとしても大きな存在感を放っている。ムードメーカーとしてもチームに欠かせない選手となった。

「今年はサイクルがハマった」

　この3名の成長こそ、大学サッカーの醍醐味なのでは？ そんな問いに中野監督も頷く。

「高校時代無名だった選手は大学で上手くなりたい、評価をされたいという思いが強い分、どんなに辛いことがあっても踏ん張ろうとするんですよ。『将来輝きたい』と、強い気持ちがあったからこそ、4年間でぐんぐん伸びてくるんです」

　中野監督はさらに続ける。

「宮本、菊地、そしてGK薄井覇斗の中核が付属高から入学し、そこに仙波、満田とJユースのエリートが来た。質の高い練習やサッカーのベースが作れたことによって、佐々木、安居、佐藤といった高校時代に注目を浴びていなかった選手がグンと伸びる。今年はこのサイクルがガッチリとハマったと思います」

【次ページ】　臨時コーチ・曺貴裁の存在