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流経大からJ1内定者なんと7人!「サイクルがハマった」理由と、あの“臨時コーチ”の存在
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byAFLO SPORT
posted2021/09/30 17:06
今季から関東大学サッカーリーグ1部に昇格した流通経済大学。7名の主軸選手が川崎フロンターレなど、J1クラブの内定を勝ち取っている
この「ハマったサイクル」にあと2つ、彼らの成長には大きな要因がある。選手たちが口を揃えて感謝を述べるのが、昨シーズン、臨時コーチとして強化に当たった曺貴裁の存在だ(現京都サンガ監督)。
一昨年のパワハラ問題により湘南ベルマーレの監督を退任した曺氏に真っ先に声をかけたのが中野監督だった。
「面識はあまりなかったのですが、ずっと大平コーチから指導力について聞いており、ニュースを見た瞬間に『こんな人材を失ったらサッカー界の損失になる』と思ったんです。『ぜひウチで指導をしてほしい』と直感して、すぐに連絡を取りました」
ちょうどこのシーズン、流経大は1部リーグで低迷したことで、2部降格の憂き目にあっていた。「流経大の1つの時代が終わり、転換期を迎えていた」(中野監督)ことも重なり、コーチ就任が決まった。
「曺さんは教育観が素晴らしかった。毎日ミーティングをやっていたのですが、そこでいろんな人生の話とか、多くの著名人の言葉などを引用、説明をして、上手くサッカーと繋げながら話していた。曺さんは学生が主体的にハードワークをするということを楽しんでいく教え方をしていたんです。走ることが楽しくて、走ることでこれだけ優位性を保てるんだとか、走ることを苦に思わないでやっていたのが『うまいな』と思いました」
ここで選手たちはハードワークすることの本当の意味を、身を持って学んだ。
佐々木は「走るタイミング、強度、質を理論的に教えてくれて、サイドバックとして上を目指せる自信を植えつけてくれた」と語ると、昨年は度重なる怪我によってほぼ1年を棒に振る形となった菊地も外からチームを見て「僕らを物凄くモチベートしてくれたというか、本当にチームが1つの塊になっていたんです。とにかく走るし、かつ走ったところにボールが出てくる。試合を外から見ていても、なんか勝手にパスが繋がっていく感じなんです。みんなもどんどんうまくなっているし、僕も途中から入って凄くやりやすかった」とその効果を口にした。
グラウンドを提供してリーグ戦を開催
彼らに大きなプラスを与えたもう1つが、ピッチ外の活動だ。
2020年は新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受けてリーグ戦がストップ。そこで関東大学サッカー連盟の理事長も兼任する中野監督が中心となって、リーグ戦実施を模索した。緊急事態宣言が発令されていなかった茨城県にある流経大が保有する人工芝グラウンド3面を提供する形で7月からリーグを開始。
当時2部だった流経大の面々は翌日に自分たちの試合があるにもかかわらず、1部の試合が行われる土曜日の試合の設営、受付、ボールボーイ、得点版係、試合後の片付けなど雑務を買って出た。もちろん、そこにはトップチームの選手も加わっている。
すると1部を戦う明治大と早稲田大の選手たちから流経大に大量の差し入れが届いた。明治大からは1000本近いスポーツドリンクが感謝の手紙とともに届き、早稲田大からは栄養補給ゼリーが寄贈され、そこにはそれぞれ学生からのメッセージが添えられていた。
「正直、試合前日にきついなと思うこともありましたが、自分たちがやったことがこう言う形で相手に伝わっていることが分かって嬉しかったし、励みになった」(佐々木)
こうした経験は今の流経大の部員たちにとって大きなプラスになり、1年で1部復帰を果たしている。