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「俺の足は君の足だ」マラドーナが不慮の事故に遭った青年GKに授けた勇気…10年越しの「ありがとう」
text by
藤坂ガルシア千鶴Chizuru de Garcia
photograph byL'EQUIPE/AFLO
posted2021/09/02 11:00
サッカープレーヤーだけでなく、世界中の人々に影響を与えてきたディエゴ・マラドーナ。この稿の主人公、エルナン・フォンセカもその1人である
2004年4月、マラドーナは薬物の過剰摂取による心臓疾患から危篤状態に陥り、ブエノ スアイレス市内の病院に担ぎ込まれた。
英雄からの激励に奮起してから約9年間、ずっとトレーニングを重ね、車椅子バスケットボール選手として活動していたフォンセカは、マラドーナが生死を彷徨っている状態にあると知っていてもたってもいられなくなり、その思いを手紙に綴ることにする。
「病院に送ったところで読んでもらえるかどうかもわからなかった。でも、ディエゴに対する感謝の気持ちと、一刻も早く回復してほしいという願いを抑え切れなくて、何らかの形で表現しないわけにはいかなかったんだ。トトーラスまで来て素晴らしいプレーを見せてくれた日の思い出、自分だけに呟いてくれた言葉、感謝の気持ちを伝えられなかった自分への怒り……。目の前にディエゴがいることを想像しながら書いたんだ」
ありのままに素直な思いを綴った手紙の最後は、こう締め括られていた。
「ありがとう、ディエゴ。今、僕の心臓は君の心臓だ」
渡せていなかった手紙
その後マラドーナは奇跡的な回復を遂げ、翌2005年8月、自身のテレビ番組「La Noche del 10」で司会を務めることになった。
番組の中で、ファンがマラドーナと対面できる企画があると知ったフォンセカは、引き出しの中にしまったままとなっていた手紙のことを思い出し、一か八かで送ってみることにする。例え選ばれなくても、もしかしたらマラドーナに読んでもらえるかもしれない。そうすれば、自分があの時伝えられなかった感謝の気持ちを届けることができる。
その思いが伝わったかのように、フォンセカが書いた手紙は10通の中のひとつに選ばれた。番組では、トトーラスでの試合の映像をバックに音読される手紙の内容をマラドーナが聞き入り、読み終わったところでスタジオにフォンセカが登場。ふたりがしっかり抱擁し合って再会を喜ぶというシーンが映し出された。
「収録が終わってからディエゴとゆっくり話すことができたんだ。10年前のことはよく覚えていてくれた。ディエゴの顔を見ながら『ありがとう』を言うことができて、やっと気持ちが晴れた思いだったよ。私があれから身体をさらに鍛えて車椅子バスケットボールをはじめたと話したら、まるで古くからの友人のようにものすごく喜んでくれてね。『じゃあ今度はアルゼンチン代表チームに入れるように頑張れ!』と激励してくれた」