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「俺の足は君の足だ」マラドーナが不慮の事故に遭った青年GKに授けた勇気…10年越しの「ありがとう」
text by
藤坂ガルシア千鶴Chizuru de Garcia
photograph byL'EQUIPE/AFLO
posted2021/09/02 11:00
サッカープレーヤーだけでなく、世界中の人々に影響を与えてきたディエゴ・マラドーナ。この稿の主人公、エルナン・フォンセカもその1人である
集まっていたトトーラスの人々は、マラドーナのプレーに酔い痴れた。スタンドもないサッカー場での試合とは思えないほど、マラドーナは素晴らしいプレーの数々を披露した。
「私はタッチライン沿いで観ていたんだけど、トトーラスのような田舎の町で、しかも自分の目の前で、あのマラドーナがバイシクルキックをしたり、ドリブルや股抜きを見せたりしていたことが信じられなかった。ゴールを決めた時はまるでアルゼンチン代表戦のように喜んでいたよ」
突然、駆け寄ったてきたマラドーナ
後半がはじまって5分ほど過ぎた頃、突然マラドーナがピッチ脇にいたフォンセカのもとに駆け寄って来ると、それまで着ていたユニフォームを脱いで渡した。そしてフォンセカを抱き締め、耳元でこう囁いた。
「頑張れよ、挫けるな。俺の足は君の足だ」
自分だけに語りかけたその言葉に、フォンセカは涙が頬をつたわるのを感じながら頷くのが精一杯だった。その光景に観衆が拍手をすると、マラドーナは人々に向かって、自分ではなくフォンセカに拍手を送るように促した。
「あの時ディエゴが何を言ったのか、私以外は誰も知らなかった。感激し過ぎて身体が震えて、ありがとうの一言さえ言えなくて、あとになってどれほど後悔したこか……」
トトーラスを去る前、マラドーナはサンチェスに、試合の収益金をすべてフォンセカのリハビリのために使うように頼んだ。そして、大勢から頼まれたサインと記念撮影に応じたあと、ロサリオ・セントラル対ボカを観るために隣町のロサリオ市へ向かって去って行った。