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「俺の足は君の足だ」マラドーナが不慮の事故に遭った青年GKに授けた勇気…10年越しの「ありがとう」
posted2021/09/02 11:00
text by
藤坂ガルシア千鶴Chizuru de Garcia
photograph by
L'EQUIPE/AFLO
2005年、アルゼンチンではマラドーナが司会を務めるテレビ番組「La Noche del 10」(背番号10の夜)が放映された。
全13回限定で放送されたこの番組では、公募されたファンレターの中から10通が選ばれ、差出人が番組の中で手紙の内容を紹介しながらマラドーナと対面できるという企画があった。紹介されたファンの話はどれも興味深かったが、その中でひとつ、私が心を打たれたのがひとりの車椅子の男性のケースだった。
それをこの本でどうしても紹介したいと思い、番組の製作者を通じて話を聞いてみると、番組放送後のストーリーにもまた、胸に響くものがあったーー。
◇◇◇
強豪ボカの入団テストに行くはずが……
94年6月4日、当時20歳だったエルナン・フォンセカは交通事故で脊髄損傷の重傷を負った。
地元サンタフェ州トトーラスのクラブ、ウニオン・デ・トトーラスのGKとしてトップチームでプレーしていたフォンセカは、本来なら6月5日に強豪ボカ・ジュニオルスの入団テストを受けることになっていた。
「ところがちょうど大雨が降ってボカのトレーニング場が浸水してしまい、テストが延期になったんだ。ブエノスアイレスに行く予定がキャンセルになったので、私は友達数人と遊びに出かけることにした。そして酒を飲んでから帰る途中、乗っていた車が横転して、他の友達は全員無傷で済んだのに私だけ骨折してしまい、運悪くその骨が脊髄に刺さったというわけだ」
この怪我により、フォンセカは生涯車椅子生活を強いられてしまう。プロサッカー選手として飛躍するチャンスを失ったショックは相当なものだったが、周囲からの励ましに支えられながらリハビリを続けていた。