核心にシュートを!BACK NUMBER
「オフにはジェッツの試合を観戦」「3Pに身体をぶつけて祝福」日本代表を牽引する富樫勇樹と渡邊雄太の“固い絆”
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph byAsami Enomoto/JMPA
posted2021/07/28 20:00
オリンピック初戦のスペイン戦にて、途中出場ながら存在感を発揮した富樫勇樹
データが示す八村、渡邊に匹敵する“得点能力”
このタイミングで渡邊は、ほぼ全ての選手が所属チームと異なる役割を求められることの難しさに言及していた。富樫も所属するジェッツでは得点力のある攻撃的なPGとして、エースとして、大事な局面でボールを任され、自らのシュートやドライブで相手を倒してきた。
ただ、代表ではジェッツにいるとき以上に周りの選手を上手に使うことも求められるし、最近の試合ではジェッツにいるときと比べて出場時間も半分ほどになっていた。内蔵されたエンジンを温めるかのように、シュートを打つ度にプレーの精度を上げていく富樫にとって、代表での起用法はリズムをつかみにくいものだ。
富樫の得点力は、それまでの数試合ではあまり見られなかった。渡邊もそれがわかっていたからこそ、あの発言とあの喜びようになったのだろう。
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バスケットボールにはアドバンスド・スタッツというものがある。得点やアシストの数は出場時間に大きく左右されるため、各試合の得点やアシスト数などの記録を30分間あたり(スタメンの選手がプレーする目安となる時間)に換算したデータにより、選手のパフォーマンスを比較したものだ。富樫のパフォーマンスを計るための30分換算のアドバンスド・スタッツは以下の通りだ。
Bリーグでの最近3シーズン:16.1得点
東京オリンピックのメンバー発表後に行なわれた4度の強化試合:7.15得点。
大会前最後の強化試合となったフランス戦:11得点(*13分36秒の出場で、5得点)
そして、東京オリンピック初戦のスペイン戦:15.3得点(*15分41秒の出場で、8得点)
これを見れば、それまでの苦境を乗り越え、世界王者相手の大事な試合で富樫がポテンシャルを発揮していたことがわかるはずだ。
なお、スペイン戦ではエース八村が36分48秒の出場で20得点、渡邊が35分41秒の出場で19得点だった。富樫が彼らと同等の35分近く出場していたら、17.8得点を記録した計算になる。
世界王者相手に、Bリーグで戦う富樫が奮闘したことは、日本代表のこれからの戦いのために意味あることだった。そして、その過程で苦しんでいた富樫をきちんと評価できるキャプテンがいたことも。
オフでの渡邊は、千葉ジェッツの試合を観るのが日課
実は、富樫と渡邊はプライベートでも親交がある。最近では、渡邊がNBAのシーズンオフで日本に滞在している間に富樫の所属するジェッツの試合の観戦に訪れるのが日課になっている。2019年4月のサンロッカーズ渋谷戦や5月の宇都宮ブレックス戦、2020年10月の宇都宮戦もそうだった。
ただ、よく考えてみると少し不思議に感じられる。
Bリーグの選手が、世界最高峰のNBAの試合を喜んで観るのならわかる。
しかし、世界最高の舞台であるNBAで戦う選手がBリーグの試合を積極的に見に来ているのだ。そこに渡邊の人柄と、2人の信頼関係が表われているし、その信頼関係はコートで良いパフォーマンスを発揮するときの力になる。