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「今のプロ野球は1、2番タイプの野手ばかりで…」プロ野球スカウトのリアル評価 今秋ドラフト候補《7人の社会人野手》
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph bySankei Shimbun
posted2021/07/24 17:05
今秋のドラフトで注目の候補、NTT西日本・藤井健平外野手(23歳・175cm75kg・左左・東海大)
3度目の打席。劣勢の無死二塁、3番打者で彼の気性なら絶対にタイムリーを狙いにいきたいはずの場面で、外寄りのボールをバットヘッドで無理やり角度をつけるようにして、二塁手の前にセーフティバントを転がしたから驚いた。
スイングの調子がイマイチなら、快足飛ばして、こっちの手もあるぞ。頭の芯はクールに醒めた状況判断。したたかな実戦力が伝わってきた。
さらに、守備の場面だ。
セガサミー・中川智裕遊撃手のライナーが右中間最深部に伸びる。やはり快足を飛ばして打球を追った藤井健平右翼手がフェンス際でキャッチ。スライディングでフェンス衝突を避けると、振り向きざま、アンダーハンドで二塁手に返したロングスローがドンピシャのストライクだ。
さらには、彼の頭上を越えていったホームランを、背丈ほどもあるフェンスに軽々飛び乗って見送るあたりの野性味というか、若さというか。
「あのライト、なんかすごいなぁ……キューバの選手みたいじゃないですか。あれ、たぶん、今年のNo.1でしょう、外野手で。昔の飯田さんを左にしたみたい。プロでゴールデングラブ賞、獲れますよ」
ゴールデングラブ賞7回、ヤクルトの名外野手・飯田哲也さんを引き合いに出して、藤井健平右翼手を認めてくれたスカウトが1人いた。
【野手編7】「“無名の”20歳ショート」JR四国・水野達稀(20歳)
そして、JR四国・水野達稀遊撃手(20歳・170cm71kg・右投左打・丸亀城西高)だ。
高校時から二塁打、三塁打ならいつでも打てます……みたいな好守・強打の遊撃手だったが、その水野達稀が社会人1年目の都市対抗野球で、三菱重工神戸・守安玲緒投手から東京ドームの右中間スタンドに持っていったから驚いた。社会人野球のレジェンドの1人に挙げられるほどの「快腕」相手だったからだ。
加えて、その敏捷、正確なフィールディング。私の目に重なっていたのは、「JR東日本の田中広輔(現・広島)」だった。
「ぜーんぜん光らない。ヘタじゃないよ……でも、何が飛び抜けてるの? 上手いかもしれないけど、ビックリしない。打つのも、守るのも、そうだな、75点……まあ、せいぜい80点平均!」
あるスカウトには、バッサリやられた。
「いや、いい選手ですよ。高卒3年目のプレーじゃない。フィールディングもバッティングもね。あとは、欲。四国で育って、まだ四国の野球しか知らない。もっと上の世界を実感して、いろんなこと教わって刺激を受けて、ガツガツ練習やったら、もっと上手くなる。プロに入るんなら、彼より上手いショートのいる球団がいい。そのほうが、もっと上手くなれる」
あるスカウトから、そんな話を聞いているその時だ。
同点の最終回、先頭打者で打席に入った水野達稀のバットヘッドが、投手方向へグイッと突き刺さったように見えた。右中間に高く舞い上がった打球は、そのままスタンドに落下して、よもやのサヨナラホームランとなった。
内角寄り、143キロの速球。
本人、直後のインタビューで、「出塁することしか考えてませんでした」と答えたが、いやいや、あのバットヘッドの押し込みは狙ってなきゃできないスイングでしょ……。
大舞台のここ一番で、これ以上ない大仕事をやってのけられるヤツ。
広島・田中広輔、西武・源田壮亮、楽天・小深田大翔、阪神・中野拓夢…社会人球界の肥沃な土壌から芽を出し、華を咲かせたショートストップたちの系譜を追いかける資格を持つヤツが、今年の社会人球界にまた現われたようだ。
(【続きを読む・投手編】プロ野球スカウトのリアル評価を聞いた 今秋ドラフト候補《6人の社会人投手》「栗林良吏(広島)と比較される右腕は…」 へ)