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「私が見てきた中で最も結束力が」アーセナルOBが“ココだけに書くイングランド躍進の理由” EURO序盤はイマイチ評価も…
text by
エイドリアン・クラークAdrian Clarke
photograph byREUTERS/AFLO
posted2021/07/11 17:04
イングランドの躍進に壁画も描かれた。フットボールの母国に最高のエンディングは訪れるか
グループステージの3試合では明らかに動きが重く、私も非常に心配になった。慢性的な痛みを抱えている足首の状態が良くないのではないか。そんな風にも感じたが、決勝トーナメント1回戦のドイツ戦で大会初ゴールを決めると、準々決勝のウクライナ戦で2ゴールをマーク。試合を重ねるごとに、コンディションは上向いてきた。
慎重なアプローチを取っているサウスゲート体制で、抜群の得点力を誇るケインは不可欠な存在だ。素晴らしいフィニッシャーであるのは言うまでもなく、右足、左足、ヘディングと、得点パターンも実に多彩である。
しかも2020-21シーズンは、プレミアリーグのアシスト王の称号を獲得し、彼の強みがゴールだけではないことを示した。ジョゼ・モウリーニョ前監督の指示で、中盤に下りてからのゲームメイキングに磨きをかけ、韓国代表FWソン・フンミンとホットラインを形成した。イングランド代表でもケインのパス能力は生かされており、頻繁に中盤に落ちてボールを受けるシーンが目立つ。
印象に残ったのは、デンマーク代表DFシモン・キアルのオウンゴールを誘発した場面だった。得点の起点となったのはケインのスルーパス。中盤に下りた27歳のFWが相手マーカーを引きつけ、DFライン裏のスペースに走り込んだサカにスルーパスを出し、待望の同点ゴールを呼び込んだ。
決勝のイタリア戦でも、ケインが偽9番のように相手DFとMFの“ポケット”に忍び込み、チャンスを呼び込むシーンは出てくるだろう。押しも押されぬエースとして、イングランドを頂点に導くことができるか。
約6万人の観客が見守る中で
イングランドの聖地ウェンブリースタジアムで、11日に行われるファイナルが本当に待ち遠しい。準決勝から入場制限が緩和され、約6万人の観客の入場が認められるようになった。ホームで戦えるアドバンテージを最大限に生かしたい。
繰り返しになるが、私はイングランド人の1人として、自国の優勝を心から夢見ている。しかし、今大会で最高のパフォーマンスを見せていたのはイタリアであったのだから、たとえイングランドが敗れたとしても、決勝まで勝ち進んだ代表チームを誇りに思う気持ちは変わらない。
世界中がそうであったように、新型コロナウイルスの感染拡大はイングランドにも暗い影を落とした。その中でファイナルまで進んだ我が代表は、自国民の笑顔を取り戻し、国民を再びひとつにしたのだから。
悲願の優勝まであとひとつ──。運命の一戦を、しかと見届けたい。
★エイドリアン・クラーク★
1991-97年までアーセナルに在籍した元サッカー選手。ポジションはMF。2006年に現役を引退。現在はプレミアリーグ公式サイトや英テレビ局BTスポーツで分析コラムを担当したり、古巣アーセナルのメディアチャンネルでコメンテーターを務める。1974年生まれ。英国ケンブリッジ出身。
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