「3カ月間、本気でマラソンに取り組みました。それがタイムとして返ってきたのが嬉しかったですね。目標タイムを切れた時の達成感ってサブ10の人もサブ4の人も同じなのかもと思いました。社会人になって、これだけわかりやすく自分の成長を感じられることはなかったので、改めてマラソンの魅力に気づけました」

　高木さんは今も個人で「健ちゃん練」という名のランニングの練習会に参加し、公式な大会のフルマラソンで2時間30分を切ることを目標に走り続けている。

　そして、神野との関係もまだつづいていく。

「箱根のような経験をマラソンでもさせてあげたい」

「僕と神野の関係性は、兄弟や家族とは違うけど、パートナーっていうのかな。共通の目標があって、それを達成するためにお互いの役割がある。これまでは東京五輪というわかりやすい目標に二人で直進的に向かってきたけど、神野も20代後半ですし、マラソン選手として何を成し遂げたいのか、自分の人生をどうしたいのか考える必要があるし、僕もこの先の人生をどう生きるべきか考えないといけない。

　神野は箱根駅伝ですごい達成感を得たと思うんですけど、今マラソンで苦しんでいて、（マラソンに対して）怖さを感じているところもあると思うんです。でも、僕はやっぱり神野に箱根のような経験をマラソンでもさせてあげたい。本人が心底喜べるのはマラソンで結果を出した時だけだろうし、やっぱりマラソンっていいなって思ってほしいんです」

　高木さんは祈るような表情で、そう言った。

　二人の関係性は、これからも少しずつ変化が生じていくだろう。だが、高木さんが神野を支える熱い気持ちは、これからも変わりはしない。ふたりで登る山は、まだいくつもあるのだ。

©Yuki Suenaga

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