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【追悼】“超人的に頑張る男”ユ・サンチョルが日本で一度だけ流した「悔し涙」…通訳が明かす“兄貴分”の素顔
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byJ.LEAGUE
posted2021/06/24 11:00
13日のルヴァン杯、横浜F・マリノス×北海道コンサドーレ札幌の試合前には、ユ・サンチョルさんをしのんで、黙とうがささげられた。
2004年シーズン、浦和レッズとのJリーグチャンピオンシップ。
ケガで離脱していたサンチョルは別調整のペースを上げて第1戦に間に合わせようと、試合前日に合流する。しかしながら結果的に同じ部位を痛めてしまうことになる。
サンチョルは顔を両手で覆い、涙した
担当ドクターから「チャンピオンシップはあきらめてください」と告げられたとき、サンチョルは顔を両手で覆い、涙したという。
高橋も、心のなかで泣いた。サンチョルとF・マリノスとの契約はこのシーズン限りだった。延長を勝ち取るためにアピールしたい思いもあったのかもしれない。逆に、最後の思い出として自分も試合に出てみんなと一緒に優勝を味わいたいと思ったのかもしれない。直接、尋ねることはできなかったが、2000年に鹿島アントラーズとのチャンピオンシップに出場していたことで「あの雰囲気が好きなんだ」とも語っていたという。
スタンドから優勝を見届け、みんなと喜び合うことができた。あの涙のことは、高橋の胸にしまった。最後まで兄貴分らしく横浜F・マリノスを去っていった。
彼は蔚山現代でのプレーを最後に2006年3月に引退。指導者に転身し、大田シチズン、全南ドラゴンズの監督を経て、2019年5月に仁川ユナイテッドの監督に就任した。だがシーズン中、体に異変を感じたことで検査を受け、ステージ4のすい臓がんが発覚する。
「Jリーグの開幕戦に行きたい」
その報道を知ったF・マリノスのサポーターを中心に、病気と戦うユ・サンチョルを励ます横断幕をスタンドに掲げていくことになる。それは2020年2月12日、ACLでのアウェー全北現代戦でも。
高橋はサンチョルから「Jリーグの開幕戦に行きたい」と連絡を受ける。開幕まであと1週間を切っていた。高橋は急いでクラブに連絡を取り、手配を整えた。
2020年2月23日、日産スタジアム。