球体とリズムBACK NUMBER
“東京五輪の秘密兵器候補”がスイスで急上昇中 20歳・鈴木冬一「自分もあのレベルに…」【古巣ベルマーレ愛も】
text by
井川洋一Yoichi Igawa
photograph byGetty Images
posted2021/04/12 11:01
ザンクトガレン戦でゴールを決めて喜ぶ鈴木冬一。彼が活躍して“秘密兵器”となれば、東京五輪世代はさらに分厚くなる
「アルゼンチンの強さに衝撃を受けました」
「こっちで観ましたよ。1試合目は全部、2試合目は練習があったので少しですけど。もちろん、自分も呼ばれたかったという思いはありますけど、あの試合では、アルゼンチンの強さに衝撃を受けました。自分もあのレベルにならないと、と奮い立たせてくれるものでした」
確かにあのU-24アルゼンチン代表には、国際的に名の通った選手がほとんどいなかったにもかかわらず、初戦では日本を圧倒した。サッカー大国の底力とこの競技の奥深さを、あらためて感じさせるものだった。それは鈴木が今、欧州の永世中立国で肌身に感じていることでもある。
「スイスにも質の高い選手はたくさんいます。メンタルも強い人が多い。アフリカや南米から来ている選手もいて、色んな価値観やスタイルを学べているので、そこも楽しいです。それから特に今は、(首位のヤングボーイズを除き)各チーム間の差が小さいので、上位にも下位にもなる可能性がある。3位までに入れば、ヨーロッパリーグの予選に出場できるので、そこを目標に置いています」
「地道に続けていって、最後に選ばれたら嬉しい」
目下、あと9節を残して、ローザンヌは3位ルガーノと同じ勝ち点37の4位につけている。3位フィニッシュの可能性は十分にある。
「もっと上の舞台を想像することはありますけど、自分は地に足がついてないと、実際のプレーに支障が出てしまうと思うので、目の前のことに集中してますね。自分はこれまでも、背伸びすることなく、一つひとつ乗り越えてきたので。だから毎日、危機感を持って、ふわふわしちゃダメだぞ、と自分に言い聞かせてます」
そう話す鈴木の表情に、切迫感はなく、充実感が滲み出ている。欧州での日々を順調にスタートさせても、謙虚で、自然体だ。あらためて東京五輪への思いを訊くと、こんな返答だった。
「海外でプレーしているからと言って、絶対に(代表に)選ばれるわけではないですよね。だから、もう選ぶしかない、という状況を自分で作らないといけないと思います。五輪代表も目標ではありますけど、まずは地道に続けていって、最後に選ばれたら嬉しいですね」
湘南の本拠地に設置した「TOICHIシート」
そう話す鈴木は先日、古巣の湘南ベルマーレのホームスタジアムに「TOICHIシート」を設置した。彼自身も世話になったホームタウンの医療従事者を招待するために。