オフサイド・トリップBACK NUMBER
香川真司を襲った“3つの不運”。
いつか「夢の劇場」に凱旋を。
posted2014/09/05 10:50
text by
田邊雅之Masayuki Tanabe
photograph by
AFLO
サッカーは人を感動させるけれど、ルポライターとして20年以上も取材を続けてくると、さすがに感覚が摩耗してくる。
それでも時々、鳥肌が立つような興奮を覚えることがある。
'94年のW杯アメリカ大会、アジア地区予選の韓国戦でカズが得点を奪った場面。
ペルージャに移籍した中田英寿が、ユベントス相手にいきなり2ゴールを決めた場面。
2010年のW杯南ア大会で、本田圭佑がブレ球のフリーキックでネットを揺らした瞬間しかりである。一番新しいケースでは、香川真司のプレミアデビュー戦がまさにそうだった。
「あれって……香川ですよね?」
「そう。スコールズと組んでパス交換しているのは真司だよ」
薄暗いグディソンパーク(エバートンのスタジアム)で、狭い記者席にすし詰めになりながら、日本から来た先輩新聞記者の方と交わした会話を、僕は昨日のことのように鮮明に覚えている。
むろん香川はドルトムント時代も、すでに凄まじいインパクトを与えていた。
日本人選手がチームのキーマンになり、しかもブンデスリーガでバイエルンを抑えて優勝を収めるなどというシナリオは、一昔前ならば考えられなかった。
だがユナイテッドへの移籍は、それ以上に衝撃が大きかった。赤い悪魔の一員に名を連ねるのは、ジョージ・ベストやカントナの系譜に連なることを意味したからだ。
「8月中旬まで、香川は移籍などまったく考えていなかった」
個人的に言わせてもらえば、それだけに今回の移籍は残念だった。また全般的な状況を考えても、8月下旬以降、急転直下で事が動いた印象が強い。
事実、ユナイテッドの内部事情に極めて近い現地ジャーナリストは、匿名を条件にこう証言してくれた。
「私が知る範囲では、カガワは8月中旬まで、移籍などまったく考えていなかったと思う。彼は昨シーズン、出場機会に恵まれなかったし、ましてや今シーズンはファンハールが監督になり、さらに大規模な選手補強に乗り出すのではないかと噂されていた。
普通ならば移籍を考えてもおかしくはないが、本人はそのような噂は意に介していなかったらしい。自分はユナイテッドでやっていく、今シーズンこそプレミアで結果を出してみせるのだと、心に誓っていたのだろう」