那須川天心戦は「自分が一番強い時にやりたい」

　誰もが待ち望む対戦は、いよいよ実現の可能性が高まった。もちろん現時点では何も決まっていない。武尊がレオナに勝たなければ何も始まらないという状況だったからだ。ここから、まずは武尊が望む中立の舞台、その座組をどう作るか。

　それでも「決まるまでは何も言えない」ではなく、対戦に向けた言葉を発することができるようになった。それだけでも前進だ。武尊は那須川について、レオナと同じく「真剣を持っている選手」だと評した。「自分が一番強い時にやりたい」、だから次の試合が理想だという言葉も。

　闘いたい理由に関して言えば、数年前よりも大きなものになっている。

「もちろん“負けたくない”という気持ちは大きいです。武尊のほうが強い、いや天心選手のほうが強いと論争みたいになって。自分より強いと言われる人間がいるのは格闘家として悔しいし許せない。勝ってK-1が立ち技最強だと証明したい気持ちもあります。でも格闘技という大きなジャンルとして、これだけパワーがあるんだぞというのを知ってもらう試合でもある」

　リング上のマイクアピール、いつもは「K-1最高！」と叫んで締める武尊だが、1年前と今回は「格闘技最高！」だった。格闘技をもっとメジャーにしたい、こんな時代だから格闘技でみんなにパワーを与えたい。紋切型の言葉だが説得力が違う。武尊はそのために体を張り、心を削り、そして勝ってきたのだ。

　敗戦は新人時代の1つだけ。現在35連勝。試合でも言葉でも笑顔でも見る者の心を奪う。K-1以前、格闘技以前に、何よりも武尊が最高だ。さらにもう1人、この世界には“最高”がいる。なんと幸せなことか。

　 帰りは雨に耐えた夜桜をゆっくり眺めながら、九段下駅への坂を下った。武尊はアドレナリンが収まった朝方に眠りに落ちた。目覚まし時計の音に気づかないほどの熟睡だったそうだ。

©Norihiro Hashimoto