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モーグル堀島行真23歳がW杯開幕戦1位でも“物足りない”理由とは 「次の優勝が総合優勝より大事」
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph byGetty Images
posted2021/01/21 17:00
モーグル堀島行真は今シーズンのW杯開幕戦を制し、世界のトップ選手たちとさらなる成長を続けている(写真:昨年2月W杯ディアバレー大会)
「キングズベリーも僕をライバルとして見てくれている」
そしてもうひとつ。最大のライバルであるキングズベリーとの間に築いている“モーグル界の同志”というべき関係が、堀島を成長させている。
最初のアプローチは5歳上のキングズベリーの方からだった。17年3月の世界選手権(スペイン)のこと。圧倒的な実力を誇るキングズベリーを破って、モーグルとデュアルモーグルの2冠に輝いた当時19歳の堀島は、キングズベリーから「これから2人で競い合ってレベルアップしていこう。モーグル界を盛り上げていこう」と声を掛けられた。
「その頃の僕は勝ちたいという気持ちばかりで、モーグル界全体を通してという考えは全然ありませんでした。けれども、ミカエル選手からそのように言ってもらえた意味などを考えながらやってきたことで、徐々に意識が変わりました。今では、僕らがトップでやっていることが結果としてモーグル界のレベルを上げているのだなと感じています」
実は今回のキングズベリーの練習再開情報も、堀島が直接本人から聞いたものだ。
「普段から直接メッセージを送って連絡を取り合っています。試合会場に行ったら顔を合わせますし、向こうも僕をライバルとして見てくれている。そういったことはありがたいです」と感謝も込めて言う。
「次のW杯で優勝するのが総合優勝より大事」
こうして迎える2月の大一番。そこで勝敗を分ける要素になりそうなものは何か。堀島が挙げるのは「僕がミスをしないこと」だ。
ミスを避けるための方策のひとつは精神面。「不安になったときにミスをしてしまうので、不安になったら深呼吸をするなど、具体的な対策を用意しておこうと思います」
技術面についても、「足を開くミスはもちろん、頭が下がるとか、上体が後ろに傾くとか、そういう細かなミスが出ないようにしなければいけない」と細部の修正に余念がない。
昨春、大学を卒業して社会人になった。すると同じタイミングで世界がコロナ禍に見舞われ、自分を見つめる時間も増えた。
「今の状況は、スポーツ選手の在り方をあらためて考える機会になっています。大会や練習をできることの幸せを感じていますし、あらためて今の立場や環境に感謝するという気持ちになっています」
堀島の言葉には実感がこもっている。
「次のW杯にはミカエル選手も帰って来ますから、そこで優勝するのが僕にとっては総合優勝より大事になる。優勝できたら総合優勝にもグッと近づく。しっかり頑張りたいです」
堀島行真、23歳。キングズベリーに勝ち、初の総合優勝をつかみ取ることがスキーヤーとして、人として、より大きく成長するための道を広げることにつながるはずだ。