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【春高バレー】お菓子の食べ過ぎで体重100kg超? 東福岡エースの覚醒を信じ続けた仲間たちの“粘り”
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph byYohei Osada/AFLO SPORT
posted2021/01/12 17:02
春高バレーで優勝した東福岡高校のエース柳北悠李(3年)
下へと打ち付けるのではなく、高い打点からコートの奥を狙って、大きく伸びやかなフォームから放つスパイクで得点を叩き出す。打数が偏ろうが、試合を重ねるごとに打点の高さや打球の重さも増し、競った場面ではセッターの近藤に「苦しい時には全部俺に持ってきていいから」と声をかけ、上がって来たトスは有言実行とばかりにほぼすべて決めた。
当然ながら相手も柳北を止めようとさまざまな策を練る。特に藤元監督が「流れを捉えて的確な指示ができる監督なので、1つでも気を抜いたり後手に回ると一気に持って行かれる」と称する清風や駿台学園はともにVリーグで選手、アナリストを経験した監督が率いる、組織力や戦術遂行能力に長けたチームだ。当然ながらポイントゲッターの柳北にはベストブロッカーを当て、ブロックは複数人がつき、得意なスパイクコースにリベロも入る。なおかつ少しでも攻撃しづらいように、柳北の助走コースやセッターが出てくる動線を狙ってサーブを打つなど、東福岡の長所を封じてくる。
しかし、準決勝、決勝で放たれた柳北のスパイクは、そんな策をも上回った。
サーブでレシーブが乱れて、ブロックが何枚つこうが構わず打つ。時に上から、また別の時にはブロックを弾き飛ばすスパイクに、駿台学園の梅川大介監督も舌を巻いた。
「柳北くんに打たれることはわかっていましたが、想像以上に拾えなかった。守備で全幅の信頼を置くリベロの矢島(大輝)が拾えないなら、拾えない。日本のユース(U18)代表のエースであるだけのプレーヤーでした」
「諦めなかった彼らの存在がなければ」
記録に残る活躍で東福岡5年ぶりの優勝に貢献したのは、紛れもなくエースの柳北だ。
だが、記録に残らずとも、頼りないエースを、頼れるエースに成長させた陰の功労者たちがいる。「彼らこそMVP」とばかりに、藤元監督が語る。
「1、2年の頃は無理矢理でも僕が柳北を引っ張り上げようと思っていたんです。でもいつまでたっても僕がやらせる、やらされている段階では日本一にはなれない。自分の足で上がらない限り、僕がいくら頂上まで引っ張り上げようとしてもダメだから自覚に任せよう、と耐え忍んだけれどダメだった。
それでも同級生たちは諦めないんですよ。またお菓子を食べた、また太った、と呆れながらもそれでも毎日、毎日、『悠李しかいないんだから』と繰り返す。そういう3年生の姿があったから、彼らのために頑張ろう、と思って僕もここまでくることができたし、みんなに押してもらった分、最後の最後で悠李が引っ張ってくれた。諦めなかった彼らの存在がなければ、成り立たないストーリーでした」
お菓子の食べ過ぎで100kgを超えちゃう、少し頼りないエース。でも最後は必ずやってくれる。たとえ自分はコートに立たずとも、「いつか」を信じ、最後まで諦めなかった3年生たちの勝利だった。