なでしこジャパンPRESSBACK NUMBER
188センチGK山根恵里奈が29歳で引退の理由 スペインで言われた「自分を傷つけすぎている」の意味
text by
細江克弥Katsuya Hosoe
photograph byItaru Chiba
posted2020/12/04 17:00
今季限りでの現役引退を発表した山根恵里奈。プレッシャーから解放され、取材中には笑顔がこぼれた
「苦しい」なんて絶対に言えない
アスリートにとってはプレーすることがすべてだから、「もうイヤだ」と逃げ出せるほど事態は簡単じゃない。そういう時にサラリとうまく立ち回れるほど器用ではなく、とびきりの鈍感力を備えているわけでもなかった。
「一番苦手なのは、苦しいです、しんどいですと誰かに伝えることなんです。家族だろうが親友だろうが、絶対に言えない。だから、結局ひとりになっちゃうんですよ。それも良くなかったんですけれど、自分で自分を守るために、ひとりでいるしかなかった」
「苦しい」「しんどい」と声に出して伝えられなくても、それらを少しでも“軽減”するために、例えば日本代表を辞退するという選択肢はなかったのか。
「その考えはぜんぜんなくて。あの頃の自分は、日本代表を目指さないなら選手をやってる意味がないと思っていたんです。でもまあ、それは今でもあまり変わりません」
なんとも難しい性格だ。
「そうなんですよホントに。ハハ。いろいろなことを自分で難しくしていただけなんですけどね」
「最悪の1年」だった2016年
笑えるのは今だからで、なでしこジャパンがリオ五輪出場権を逃した2016年は「最悪の1年」だった。
「『終わったな』と思いました。やっちゃいけないことを、ついにやっちゃったんだって。勝負の世界だから勝つことも負けることもあるし、日本代表なんだから結果に対していろんな声があるなんて当然のこと。私自身がよくなかったのは、その声を一番難しく解釈して、自分の中のモヤモヤをどんどん大きくしてしまったことで……」
そのモヤモヤが、「得体の知れない何か」の正体だった。
「そう。もちろん、みんなそれぞれ、何かしらのモヤモヤを抱えていたと思います。でも、誰もそれを見せなかった。それが、あの時代のなでしこを支えた先輩たちの強さだと思います」
どん底に落ち込んだ2016年。何をどうすればいいのかわからなくなって、それでも「何かを変えなきゃ」と思い立った。そうして彼女は、海外移籍を実現するための“自己PR動画”を編集し始めた。