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188センチGK山根恵里奈が29歳で引退の理由 スペインで言われた「自分を傷つけすぎている」の意味
posted2020/12/04 17:00
text by
細江克弥Katsuya Hosoe
photograph by
Itaru Chiba
この12月で30歳。来年には東京五輪があるというのに、なぜこのタイミングで引退を決意したのか。ジェフユナイテッド市原・千葉レディースに所属する元なでしこジャパンのGK山根恵里奈は、「それが本当にわからなくて」とまるで他人事みたいに笑った。
「8月くらいだったと思うんですけれど、気がついたら『あれ?』って。もともと、ずっと前から30歳がひとつの節目になるだろうなとは考えていたんです。でも、コロナ自粛明けの6月の時点では、『きっと来年もやるだろうな』と普通に思っていたので」
それが、なぜ急に。
「急というか、自然と。リーグ戦が始まって、何となく、いつもよりずっと引いた位置から、すごく客観的にチームを見ている自分に気づいてしまって。1歩どころじゃなく、2歩も3歩も。で、ああ、自分はもう、そういう感じなのかなって」
気持ちが完全に固まる前に、とりあえず軽めのLINEを入れてみた。相手は母親。「もしかしたら引退するかも」。すぐに返信があった。「そうかなと思ってました」。娘にとって、それは少し意外な反応だった。
「両親には『好きにやらせてあげたんだから30歳までは頑張れ』みたいなことをずっと言われてきて、でも、来年は東京五輪があるし、母も父もずっと『2020』と言っていたし、だから私が引退するなんて思ってないだろうなって。それなのに『そうかなと思ってました』なんて返されたから、そこで1回バーンとなりました。あ、好きにしていいんだって」
軽めのLINEではなく、初めて重く「引退」を口にしてみた時、そこにいたのはホッとしている自分だった。全身の力が抜けて、ふっとひと息つく感覚があった。
「結局、それが私の弱さだったんですよね。得体の知れない何かとずっと戦っていて、その戦いを終えられることの安堵感を感じちゃってる自分というか。東京五輪とか、なでしこジャパンを目指さない選択をしたということは、つまり負けたということです。でも、勝った部分もあるんですよ。それは自分を貫くって決めたことです」
山根にとって「得体の知れない何か」との戦いは、サッカー選手としてのキャリアそのものだった。