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河村勇輝「父のような父になりたい」 非“熱血おやじ”が作った庭のバスケットコートが高校生Bリーガーを生んだ
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph byYuki Suenaga
posted2020/11/29 17:01
オータムカップでの自身のプレーには「満足していない」という河村。12月7日に始まるインカレでも優勝を狙う
雨の庭で感じていた、大きな父の愛
一緒にキャッチボールをする機会は減ったが、河村の“心変わり”に対しても吉一さんは好意的だった。そこからバスケにのめり込んでいく姿を温かく見守ってくれていた。
「見守る」というのが、吉一さんと河村との関係を表すキーワードだ。
広大な庭ではあったが、すぐ外には田んぼが広がっていた。ボールが大きくバウンドすると、田んぼに落ちてしまうことがある。それでは困るだろうと、吉一さんは自家製のネットや、好きなだけバスケに打ち込めるように家庭用のナイター設備も作ってくれた。
河村にとって父親の日曜大工による環境作りはどれも嬉しかったが、特に愛を感じたのは天気に恵まれない日だった。
雨が降ると、吉一さんは庭に巨大なブルーシートを敷いてくれるのだ。雨がやんだあとにそのシートをどければ、バスケができるように。
雨粒の下でバスケをして叱られた記憶は河村にはないが、そのあとに風邪を引かないようにと声をかけられた記憶はある。そういうときには決まって、風呂を沸かしてくれていた。
「体育館だけではなくて、あの庭でバスケをしたことが、自分の今までのバスケ人生のなかで基礎になっているんじゃないかな」
河村の記憶にある吉一さんかけてくれた言葉
ただ、愛息のためにそこまでの愛や情熱を傾けていれば、あれこれ口を挟みたくもなる。「○○をしろ」と指示をすれば、ある程度の成長も見込めるかもしれない。
だが、そんなことは実際にはしなかった。
「今度、1回レッグスルー(股の下を通すドリブル)をつかってみたらどう?」
「今日はちょっと、バックビハインドパス(腕を背中側に回して出すパス)を1回つかってみたら?」
河村の記憶にあるのは、吉一さんがたまにかけてくれたそんな言葉だった。