「彼は剛球のイメージがありますが、曲がり球を凄く上手に操れるピッチャー。カーブにしろ、スライダーにしろ、それを軸にいけるピッチャーなので。それで組み立てにはなるな、と。真っ直ぐは140kmぐらいしか出ないので、その分をスローカーブで緩急つけていけば、変化球を主体にして何とかなるという感じはありましたね」

　淡々と。迫力はない。でもまるで将棋の駒を盤面に置いていくように、ホームプレートを中心に静かにボールを配していく。

　2回にはアレックス・ラミレスに右翼線に二塁打を打たれたが、落ち着いて亀井善行と谷佳知を連続三振に抑えて切り抜けた。3回には稲葉篤紀の本塁打などで味方が4点を先制。直後の4回に2死から亀井に2ランを浴びたが、後続を断って凌いだ。

「1回が終わったあたりでしたかね、（坂本）勇人と『全然違うね』と話していました。ただ、ボールに速さはないけど、スローカーブからの真っ直ぐの速さというのは感じる部分もあるし、その辺が野球センス。そこに翻弄されて、何だかあれよ、あれよという感じで回が進んでいってしまった」

　第2打席も遊ゴロに倒れた松本が語るように、文字通りに巨人打線はダルビッシュの軟投にかわされていった。

鶴岡はエースの状態を見極めながら好リード。松本は4打数1安打に終わった　photograph by Hideki Sugiyama

宝刀のスライダーで小笠原を仕留めて……

　そして巨人の唯一のチャンスと言えたのは5回。2死から3連打で満塁と追い詰め、打席に小笠原を迎えた場面だった。

　しかしここでダルビッシュが、この試合でただ1回だけ、ギアを入れた。

　148kmの速球を2つ続けて、カウント1ボール1ストライクから104kmのカーブで追い込む。そして最後は内角低めに宝刀のスライダーを投げ込み空振り三振に仕留めた。マウンドで右手の拳をグイッと引いて吠えた、吠えた。そしてベンチに戻り際にもう一度、腹の底から咆哮をあげた。

　6回を7安打2失点。この投球内容に「本来の調子には程遠かった」とメディア用にコメントは回したが、試合後のお立ち台のダルビッシュには笑顔が溢れていた。

　「一世一代の投球ができました」

　こう見得を切ってスタンドを見上げた。

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