指名の挨拶に訪れた担当者である河原隆一スカウトは、佐野に次のような言葉を掛けた。

「君は打撃が売りだから、そのバッティングでチームに貢献してくれ。最初は代打からのスタートになると思うけど期待しているよ」

　またプロの大先輩であり、南海やダイエー、西武などで活躍した伯父の佐々木誠からは、年末年始の親戚の集まりの際にアドバイスをもらった。

「『プロは厳しい世界だけど、一番大事なのは1年目だよ』と言ってもらったんです。しっかりアピールして、プロでもやれるんだということを見せられるよう頑張りなさいって」

　佐野はその言葉を忠実に守るかのように、オープン戦で打率3割超えするとラミレス監督から打撃センスを認められ、ルーキーながら開幕一軍の切符を手に入れた。以降、代打を中心に勝負強いバッティングで信用を積み上げ、4年目にしてレギュラーで四番という現在の立場を手に入れている。

あの日、数時間でまちがいなく僕の人生は変わった

　シンデレラストーリーといっては手垢にまみれた表現ではあるが、結果がすべてのプロの世界にあって、佐野の努力とチャンスを逃すことのない活躍ぶりは特筆すべきものであることは間違いない。ドラフトの順位は関係ない、という言葉を佐野は見事に証明し、体現している。

「まわりから順位は関係ないよって言われて僕もやってやろうという気持ちになれたし、本当にその言葉のとおりだなって。9位で入って、声を掛けてくれる人は少なかったんですけど、その言葉には本当に助けられたし、これからもそういう人たちを大切にしていきたいですよね」

　そう言うと、佐野は柔和な表情を見せた。そして4年前のことを思い出し、実感を込めつづけるのだ。

「本当あの日、数時間でまちがいなく僕の人生は変わったと思います。ドラフトに掛かるか、掛からないか――。2つに1つでした。25年間の人生で一番の分岐点だったと思いますし、本当、忘れられない1日ですよね」

　運命を決める1日。多くの若い選手たちの人生を左右するドラフト会議が、いよいよ今年も始まろうとしている。