「2人の指名が終わってから1時間ぐらいですかね。いよいよ難しいのかなって。まわりもそう感じていたんじゃないかと思います。本当に人生で一番苦しくて長い時間でしたし、だからこそ鮮明に覚えているんですよね。各球団の『選択終了』のアナウンスと画面が出るたび、心が折られていくようで……。何度も折られました。本当に怖かったし、もう思い出したくないですよ」

　メンタル的に限界と思えたころ、運命の瞬間は訪れる。各球団が指名を終えるなか、DeNAが佐野を9巡目で指名したのだ。爆発するように歓喜に沸く明大野球部の仲間たち。佐野は嵐のような祝福のなか、安堵のため息をついた。

「嬉しさよりも、ホッとしたというのが正直なところでした。本当、一緒に待ってくれたまわりの人たちには感謝ですよね。ただ同時に、喜びよりも悔しいという感情が湧いてきたんです。同級生が1位と2位で指名が掛かっていましたからね。自分の評価が低いのは理解していましたが、これをどうにかしないといけないなって」

　じわじわと湧き上がる克己心。下位指名から四番へと登り詰めた佐野のハングリー精神は、このとき萌芽したのかもしれない。

©Kiichi Matumoto

DeNAが佐野を指名した“決め手”

　プロへの扉をこじ開けることができた。もしドラフトで指名されなければ、社会人で野球を続ける予定だったという。

「けど、そうなっていたら今の自分があるかどうか……。とにかく入団できなければスタートラインにさえ立てない。あとは自分次第ということも理解していました。とにかく球団には声を掛けていただいて本当に感謝しています」

　指名の決め手は言うまでもなく、可能性を秘めたその打力だった。DeNAは予定していた指名を終えていたが、代打の層に不安を持っていた高田繁ゼネラルマネージャー（当時）の鶴の一声で、佐野の指名は敢行された。

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