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ドラフト15年前の“くじ間違い”事件 高3の陽岱鋼を戸惑わせた「NPBのハンコ」問題
text by
田尻耕太郎Kotaro Tajiri
posted2020/10/21 17:04
2005年ドラフト、当たりと勘違いして喜ぶソフトバンクの王貞治監督(右)とがっくり肩を落とす日本ハムのヒルマン監督
陽は、先ほどと違い硬い表情のままだった。しばらく沈黙。長く返事に詰まり「嬉しいです」とぽつりと答えた。日本ハムのイメージについては「分かりません……」。目標やどんな選手になりたいかという質問には言葉が出てこなかった。
決して日本ハムを拒絶していたわけではなかった。ただ、気持ちの整理ができなかっただけだった。まだ18歳の若者である。しかも異国の地に来て3年で、母語ではない日本語で表現を求められるのだから、無理もなかった。
会見が終わり、ペン記者向けの囲み取材の中では「最初、ソフトバンクと思ったのに日本ハムと聞いてワケが分からず、頭が真っ白になった。兄と同じチームでやりたかったけど、プロになりたい気持ちに変わりはない」と説明をしていた。
2016年からマークを外して白紙に
陽は、その後台湾に戻って家族と相談。その後札幌ドームなどの施設見学をする中で前向きな気持ちを固めていき、同年11月9日には日本ハムと仮契約をした。プロ入り後は4年目オフに「陽岱鋼」と登録名を変え、翌年の後半戦にレギュラーに定着。チームを代表するスター選手となり、2013年には47盗塁でタイトルも獲得した。2017年から巨人に移籍して現在に至っている。
また、NPBはこの時の不手際を認めて陽と辻内をはじめ学校側などにも謝罪をしたが、勘違いの原因となったくじの印字についてはそのままにした。しかし、2015年に再び冒頭に記述したハプニングが起きたため、2016年ドラフトから外れくじからマークを外して白紙にすることにした。
まもなく迎える2020年のドラフト会議。各報道で頻繁に名前の挙がる選手については、重複1位指名は必至な状況だ。今年はどんなドラマが生まれるのか興味津々だが、そこに悲劇の主人公が生まれるのは勘弁してもらいたい。人間にミスはつきものだが、繰り返してはならない。