「交渉権はソフトバンク」

　まずは片山の抽選が行われて楽天に決定。ここまではスムーズに行われた。

　混乱が始まったのは、2番目の辻内からだった。

　巨人の堀内恒夫監督、オリックス中村勝広GMの順で抽選箱から封筒を取り出し、開封した。ガッツポーズの中村GM。堀内監督は、くじを確認することもせずに席に戻った。場内には「辻内投手の交渉権はオリックス」とアナウンスもされた。

　続いて陽の抽選。日本ハムのヒルマン監督、ソフトバンクの王貞治監督の順番でくじを引いた。封筒を先に開け、くじを高々と掲げてガッツポーズをしたのは王監督だった。ただ、ここで事務局側は「交渉権は日本ハム」と発表。これに王監督が手を挙げて違う、違うと主張すると、「交渉権はソフトバンク」と再度発表があった。

「（涙が出たのも）うれしかったから」

　じつは筆者はこの時、陽の会見を取材するために、福岡第一高校でその瞬間に居合わせていた。

　もう15年も前になるので朧気な記憶と、当時の取材メモや新聞記事などを掘り起こして振り返ってみる。

　校舎1階に用意された会見場には大きなテレビが用意されており、陽は校長先生や野球部の監督と並んで報道陣の前に座っていた。ドラフト会議の中継を同じ空間で一緒に見ていた。

　陽はとにかく緊張していた。それが教室中に伝染する。ざわめきも抽選の時間になるとピタリと止んだ。スチールカメラの無数のシャッター音だけが室内に響いていた。

　大きな画面の中で、王監督が満面の笑顔で右手を挙げる。一気に興奮に包まれる福岡第一高校の教室。陽は安どの表情を浮かべながら泣いていた。

　そのままの流れで地元テレビ局主導による会見が始まった。

――ソフトバンクに決まった気持ちは？

「とてもうれしい。兄と一緒にプレーできる。（涙が出たのも）うれしかったから」

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