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ペレは英雄、「マイアミの奇跡」で
GKジダは?ブラジル特有の人種問題。
text by
沢田啓明Hiroaki Sawada
photograph byREUTERS/AFLO
posted2020/07/29 17:00
アトランタ五輪、日本戦でロングボール処理を誤ったアウダイール(左)とジダ。試合後、2人はいわれもない批判を浴びたという。
監督やクラブ役員などを見てみると。
ブラジルの人種構成は、白人が約43%、混血が約47%、黒人が約9%、アジア系が約1%とされる(2019年のブラジル地理統計院発表)。
しかし、フットボールの世界では黒人や混血の選手の存在感が圧倒的だ。たとえば、セレソンの先発メンバーは黒人や混血の選手が8~9人で、白人が2~3人ということが多い。
ところが、ブラジル1部の20クラブの会長は全員が白人。黒人や混血の会長は1人もいない。クラブ役員の多くも、白人だ。
監督も現時点で未定のフラメンゴを除く19クラブのうち、混血が1人いるだけで残りはすべて白人。選手の人種構成とは著しく異なる。
過去、実績を残した黒人監督も少ない。わずかに1958年と1962年のW杯で優勝した名MFで、引退後、ペルー代表を率いて1970年W杯南米予選でアルゼンチンを倒して40年ぶりに本大会に出場し、ベスト8入りしたジジがいる程度である。
なおキャプテンもクラブ、代表ともに黒人選手が務めることは稀なケースとなっている。
人種差別が最も少ない国の1つだが。
先に挙げた統計からもわかるように、ブラジルは人種の混交が非常に進んだ国である。
法整備を見ても1951年、人種と肌の色に起因するあらゆる差別行為が違法とされ、厳しい罰則が設けられた。以後、人種差別が深刻な社会問題となったことはない。
友人の弁護士に尋ねると「ヘイトスピーチやそれに類似する行為は、これまで聞いたことがない。もしそのようなことが起きれば、参加者が全員逮捕されるのは間違いない」と語るほどである。
ただその一方でBLM(ブラック・ライブズ・マター)運動はブラジルにも波及したが、その影響は欧米各国と比べると限定的だった。
この国に長く住み、また世界60カ国余りを旅行した経験から、個人的にはブラジルは世界で人種差別が最も少ない国の1つではないかと思っている。
1人のマーティン・ルーサー・キング・ジュニアも1人のネルソン・マンデラも出ていないのに、人種問題をかなりうまく収めているように思える。
しかしながら白人の側に黒人や混血の人々への差別感情が、全くないわけではない。