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ペレは英雄、「マイアミの奇跡」で
GKジダは?ブラジル特有の人種問題。
text by
沢田啓明Hiroaki Sawada
photograph byREUTERS/AFLO
posted2020/07/29 17:00
アトランタ五輪、日本戦でロングボール処理を誤ったアウダイール(左)とジダ。試合後、2人はいわれもない批判を浴びたという。
マラカナンの悲劇で失点を喫し……。
引き分けでも悲願の初優勝を達成するという有利な状況。しかもブラジルが先制したが、追いつかれた。
終盤、ウルグアイの快速右ウイング・ギッジャが右サイドを突破する。バルボーザがクロスを予想して一歩前へ出た瞬間、ギッジャがニアサイドへ強烈なシュートを放った。
意表を突かれたバルボーザは、止めることができなかった。
これがウルグアイの決勝点となり、まさかの逆転負け。ブラジルは準優勝にとどまり、巨大なマラカナン・スタジアムを埋めた20万人の大観衆は悲嘆に暮れた。
この試合は「マラカナンの悲劇」と呼ばれるほど有名な出来事となり、ブラジルのフットボール史上最大の屈辱とされた。
バルボーザには「黒人だから、大事な場面で冷静さを保てなかった」などという不当な批判が降り注ぎ、「黒人にGKは任せられない」とまで評されたのだ。
ようやく台頭したジダだったが。
以後、黒人や褐色の選手はGKの適性があっても他のポジションにコンバートされるのが常となった。1990年代前半にジダ(クルゼイロやACミランなどで活躍し、欧州CLで2度優勝。ブラジル代表でも2002年W杯制覇)が出現するまで、40年以上にわたって有力なGKがほぼ皆無だったのだ。
なおバルボーザは2000年に死去したが、晩年には「ブラジルの刑法では、懲役の最長期間は30年と聞く。しかし、自分は50年近くたっても許してもらえない」と涙を流したエピソードが残っているほどである。
そしてジダも、悲哀を味わう。
1996年のアトランタ五輪・日本戦(日本にとっては「マイアミの奇跡」)では、日本の左MF路木龍次のブラジルゴール前へのロングパスに対応しようとして、GKジダとCBアウダイールが衝突。これが失点に直結して敗れた。
この際にも、一部メディアと国民からは「黒人選手は状況判断が拙い」という声が出た。これは、46年前にバルボーザへと向けられた批判と同根だった。