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武豊に聞く。ディープインパクトは
サイレンススズカを差せるのか。
text by
片山良三Ryozo Katayama
photograph byKeiji Ishikawa(L&in the article),Takuya Sugiyama(R)
posted2020/06/27 11:50
大逃げを打って直線で突き放すサイレンススズカ(左)と後方から豪快にまくって差すディープインパクト。勝負の行方、武の見解はいかに?
武が考える「理想のサラブレッド」とは?
武は改めて、「理想のサラブレッド」についてこう説明する。
「競馬は、最後にいい脚を残したいから、前半を抑えて行くことを考えるわけじゃないですか。でも、本当に理想的な競馬はいきなり先頭に行って、最後もいい脚を使う。これができる馬が理想のサラブレッドなんです」
武が金鯱賞後に語っていた数字、前半1000mを58秒で逃げ、後半1000mも58秒で上がるとすると、2000mを1分56秒ジャストの驚異的なレコードで走ることになる。最初から飛ばして逃げることで、不利を受けることもない。
つまりは、そんな芸当ができれば、「負けようがない」(武)ということなのだ。
武はサイレンススズカに、この驚異的なレースができる可能性を感じていたのだろう。能力だけでなく、性格も向いていた。武は以前、サイレンススズカの性格についてこう語っていた。
「ペースは速いけど、そのほうがリラックスして走れているんですよね。後ろから突かれるような逃げ方だと興奮してしまうし、ましてや前に馬がいる形だと追いかけたくてウズウズしてしまう」
次走の宝塚記念は、皮肉なことに武豊騎手のお手馬が重なってしまった。前年の天皇賞馬、エアグルーヴも出馬することになったのだ。結局、サイレンススズカの鞍上をワンポイントで南井克巳騎手に譲った。
結果的に、サイレンススズカのGI勝ちはこれだけだったので、今でも武はこのレースに関しては口が重い。
エルコンドルパサー、グラスワンダーに圧勝。
夏を越して、秋の初戦に選んだ毎日王冠では、再び武が鞍上に戻った。
迎えた強敵は、NHKマイルC(GI)を制していた5戦5勝のエルコンドルパサーと朝日杯3歳S(GI)に勝ち、ケガのため休んでいた4戦4勝のグラスワンダー。1歳年下の強力な外車たちだった。武はこう振り返る。
「これは楽しみだなって、ワクワクしましたよ。当然、(勝つ)自信がありましたから」
その言葉のとおり、サイレンススズカは、早めに捕まえに来たグラスワンダーを突き放し、そのあとで迫ってきたエルコンドルパサーをゴール前でもう一度離してみせた。
「強い!」の一語だった。
後に凱旋門賞で2着になるエルコンドルパサーが日本で負けたのは結局このレースだけだった。