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パク・チソン取材は日本語に限る!
「俺、Jリーグのレジェンドなの?」
text by
吉崎エイジーニョ“Eijinho”Yoshizaki
photograph byRyuichi Kawakubo/AFLO SPORT
posted2020/05/31 11:50
2003年の京都パープルサンガ時代、鹿島を破っての天皇杯優勝時のパク・チソン。決勝では自ら得点し、勝利に大きく貢献した。
韓国の地で大英雄にインタビューできるか!?
欧州でのキャリアでは、日本人選手と運命が交差することもあった。'12年夏、マンチェスター・ユナイテッドでの「最後の時」に、彼はソウルにいた。
Kリーグのオールスターゲームが「'02年W杯10周年記念試合」として、'02年W杯OBチームとKリーグオールスターチームが対戦。この試合に出場したのだ。7月5日のことだ。
この時の、筆者の現場での取材テーマは明らかだった。「香川真司のことを聞く」。この年の夏に加入が決まったばかりだった。
ただし、取材は困難を極めた。ただでさえ直接言葉の聞ける機会の少ない大英雄の帰国だ。それに'02年W杯10周年を祝うムードが圧倒的に強かった。しかも前日、このイベントに参加したフース・ヒディンクにも香川真司のことを聞き、韓国メディアから大ブーイングを受けたというプレッシャーもあった。ホントに韓国メディアの記事のなかで「日本の記者が10周年記念イベントを汚した」と批判されもした。
そのなかで、彼を捕まえ話を聞き出さなければならない。2つ課題があった。まずは捕まるのか。そして話を聞いたとしても、先に内容を韓国メディアに使われてしまうのではないか。ミックスゾーンとは「共同取材エリア」、文句は言えない。
よし! 日本語で聞こう!
試合後、通り過ぎるパク・チソンに向かって手を挙げた。
リアクションがあった。しかしもうもみくちゃだ。韓国メディアの数台のカメラ、数え切れないレコーダー。ああ……。
刹那、思いついた。日本語で聞こう。
そうすれば、ちょっとは取材の独占性を守れるだろう。もっと韓国メディアには嫌がられるだろうが。
――香川真司がマンUに来ることになりました。どんなことを思います?
「同じ東アジアの選手と一緒にやれることは嬉しいですよ」
――香川にアドバイスをするとしたら?
「マンチェスターにおいしい鉄板焼のお店があるんで……」
これ、全部日本語の内容です。
まあ、ちょっとだけ韓国メディアにも使われたが。「パク・チソン、日本語も上手い」という趣旨で。
この4日後、7月9日にパクのQPRへの移籍が正式発表となった。パクのお父さんが衝撃的な後日談を教えてくれた。
「あの時、QPRの監督だったマーク・ヒューズが韓国に来てチソンと話をしたんです。仁川国際空港から堂々と入国しましたよ。でもどのメディアにも気づかれなかったんです」
まったく隠すつもりはなかったが、結果的に「電撃移籍」となったのだった。周囲は騒いでいるけど、本人は淡々としている。