球体とリズムBACK NUMBER
紙吹雪と貧富差、痛烈な削り合い。
ボカ対リーベルの熱狂は唯一無二。
text by
井川洋一Yoichi Igawa
photograph byREUTERS/AFLO
posted2020/04/05 08:00
世界屈指の名スタジアムと言われるボンボネーラ。スーペルクラシコでのボルテージは想像もしえないものだった。
CLやW杯以上だったスーペルクラシコ。
試合内容だけでいえば、このスーペルクラシコを上回るものは、チャンピオンズリーグやW杯の熱戦など、個人的にもたくさんある。でもあのボンボネーラの空気は、そこにしかなかったものだ。
大量の紙吹雪、世界中でコピーされる歌、むき出しの人々、あの夕焼け、タフな罵り合い、ハードなチャージ合戦、そして美しいゴール……。
僕にとって一番のスタジアムは、2005年のボンボネーラだ。そして1番の試合は、これまでに一度しか経験していないスーペルクラシコだ。
試合が終わった後、薄暗い外の街を横目に、混み合う階段を足早に降りていると、ステップを踏み外しそうになった。すると寡黙そうなおじさんが瞬時に肩を取ってくれ、大丈夫か、と表情で伝えてきた。
「グラシアス(ありがとう)」と返すと、「ナーダ(いいんだ)」ではなく、「スエルテ(幸あれ)」と意外に太い声で言って、にこりともせずに去っていった。物珍しいアジア人の旅の行く末を、気にかけてくれたのだろうか。
スタジアムの外はすっかり暗くなっていたけれど、なぜだか僕は2日前より、ボカの街を何食わぬ顔で歩けたような気がする。