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西田有志のサービスエースの裏に。
ジェイテクト悲願のVリーグ初優勝。
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph byV.LEAGUE
posted2020/03/02 20:00
無観客試合で行われたV1リーグ男子ファイナルは、西田有志擁するジェイテクトがフルセットの激戦を制した。
セッター中根が描いたシナリオ。
「西田がサーブを打つ前のS5ローテで、スパイクを打たせることを常に意識してきました。上げれば西田は決めてくれるので、スパイクが決まって、気持ちいい状態でサーブを打たせたい。もちろん相手との兼ね合いもあるので、ウィークブロッカーがいれば逆サイドに上げることもあります。
でも、ラリーが続いたり、ブレイクを取る場面では極力、サーブの前は西田に上げる。いいか悪いかはわかりませんが、僕の中ではサーブを打つ前には西田に打たせて気持ちを上げさせる、その意識でずっとやってきました」
そう明かしたのはレギュラーラウンドも終盤に差し掛かった、3レグの岡山大会。中根が打っていた策を隣で「今、初めて聞いた」と苦笑いを浮かべながら、西田が言った。
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「ありがたいです。言われてみたら、確かにそうだな、と。いい状態に持ち込んでくれていることでサーブにつながっているのは確かだと思うし、だからこそ決め切らないといけない。バレーは1人でやっているわけではないので、自分は自分の役割を、冷静に果たしたいと思います」
決勝戦もまさにそう。袴谷のサーブから西田のスパイク、そしてサービスエース。それは、中根が描いたシナリオ通りだった。
「憧れ」から「負けたくない」に。
ワールドカップの熱がそのまま冷めぬよう、冷まさぬように。全国どの会場へ行っても満席に近いスタンドから最も大きな声援が送られ、その声に笑顔で応え続けて来た。紛れもなく、今リーグの主役は西田だった。
そしてその期待に応えるべく、ワールドカップで重ねた自信が、明らかに西田の意識を変えた。いや、変えたのは意識だけではない。
Vリーグでは超一流の外国人選手がズラリと揃う中で渡り合った西田と清水。決勝でも対峙した同じサウスポーの2人は、日本が誇るべきオポジットである。西田にとって清水は、2018年に日本代表へ初選出され、同じ日本代表としてプレーするようになっても、憧れの見上げる存在だった。
ワールドカップ開幕を控えた、昨年8月の薩摩川内合宿では「清水さんがいるだけで自分はありがたいし、学ぶことしかない。全部がお手本です」と目を輝かせていたが、今、向けるのは羨望の眼差しだけではない。
開幕からの7連勝が止められた、1レグのパナソニック戦で敗れた後だった。
カジースキを封じ、攻撃を西田に絞らせるべく緩急をつけたサーブで揺さぶりをかけた清水のゲームコントロールが光った一戦。西田は「学べることがたくさんあった」と言いながらも、悔しさを露わにした。
「清水さんはどんな状況でもコンスタントにああいうサーブが打てて、チームを乗せることができる。去年はケガから復帰されたシーズンで、あまり対戦機会はなかったですが、チームを勝たせるようなパフォーマンスをされると自分としても燃えますし、絶対負けたくない、という気持ちが改めて強くなりました」
西田に限ったことではない。
清水にとっても西田は、昨年日本代表で共に合宿を重ねてきた当初は「十分にアップをしなくても1本目からバーンと打てる勢いのある若いヤツ」だった。だが、今は違う。
「どんな劣勢でも、自分の武器であるサーブは絶対ひるまない。ミスを恐れず、常に打ち続ける、攻撃姿勢を見せるところは西田選手の強みだと思うし、同じオポジットとして尊敬する選手です」