ワインとシエスタとフットボールとBACK NUMBER
オシムが辛口で振り返るCL決勝。
「あったのは厳格な規律だけだった」
text by
田村修一Shuichi Tamura
photograph byGetty Images
posted2019/06/05 08:00
結果的にはPKで決勝点をマークしたサラーだったが、90分間通じてのプレーを見ると本来の力を発揮したとは言い難い。
彼らの潜在能力を考慮したら……。
――開始直後のペナルティですね。
「これはとても大きな意味を持つ試合だ。たしかにPKは異論の余地はなかったし、判断も間違ってはいない。腕に当たっていたのは間違いないのだから。だがそれで試合が始まってすぐに大勢が決まってしまった。試合前から決まっていたとすら言える。どちらも固いブロックを形成して、相手の最高クラスの選手たちを自由にプレーさせなかった。
見る側も何か凄いことが起こるのを期待できなかった。試合開始直後からサラーが困難に直面しているのが容易に見て取れたし、他の選手たち――フィルミーノなども消えていた。これがイングランドの典型的なやり方で、まるで100年前のドイツと同様に規律にあふれ、きっちりとマークをして相手に自由を与えない。そんな状況では、優れた選手でもプレーをするのは難しい」
――トッテナムには動揺があったように見えました。
「リバプールはリードを守ってゲームをコントロールしようとしていたが、攻略不能には見えなかった。彼らはコンディションも良くはなかった。サラーはマークに苦しんでいた。彼らのポテンシャルを考えたら本当に残念だ。
もっとずっといい試合になっていてしかるべきであったのに。彼らの名前とポテンシャルを考慮したら、それに値するパフォーマンスを発揮したとは言い難かった。あったのは厳格な規律だけだったと言ってもいい。監督が強度のディシプリンを選手に求め、厳格にコントロールした試合だった。
チャンピオンズリーグ決勝は普段の試合とは重要度が違う。巨額の金が動き、選手もクラブ首脳たちも難しい試合であることをよくわかっている。
だが、今はシーズンの最後で、どの国もリーグの最終盤を迎えて厳しい戦いが続いていた。通常のコンディションを維持できないのは当然だ。たとえばサラーはフィジカルが十分ではなく、彼に何かを期待するのは難しかった。
ソン・フンミンもまた万全の状態では臨んでいなかった。疲れをためたまま試合に入っても、最高のプレーを見せることなどできない。
今日のサッカーで求められるのはフィジカルだ。スプリントの回数や質、ドリブルやデュエルなどなど……。準備が十分でないと、それらは完遂できない。そのうえ相手は自分たちと同じぐらい優れたチームだからさらに大変だ。
オーケイ。試合はもう終わってしまったのだから、ここを新たなスタートにしよう。なにか新しいフォーマットを求めよう。今はまだ具体的なことは言えないが、サッカーは常に何かを求めている。より興味深い何かを」