ビッグマッチ・インサイドBACK NUMBER
バルサの息の根を止めた5番手FW。
移籍を断りクロップを信じたオリジ。
posted2019/05/08 17:30
text by
寺沢薫Kaoru Terasawa
photograph by
AFLO
インタビュアーが問う。
「何が起こったんですか?」
興奮気味のユルゲン・クロップが答える。
「フットボール!」
「世の中にはもっと大事なこともある。でも、この感動的な雰囲気を一丸となって作り出したのは、とても特別なことだ。今までに感じたことのないような感情だよ。フットボールでは、そういうことが起こるんだ」
2019年5月7日、チャンピオンズリーグ準決勝セカンドレグ。バルセロナと対峙するリバプールは、絶体絶命の状況でキックオフの時間を迎えていた。1週間前に行われたカンプノウでの第1戦は0-3の大敗を喫していた。
「サラーもフィルミーノも出場できない。秘策はあるかって? ……当然、勝利を目指すよ。世界最高のストライカーが2人出場できない。そしてバルセロナ相手に90分間で4ゴールを決めなきゃいけない。……言うのは簡単だけど、もちろんそれを目指す。それしかない」
試合前の会見でそう語ったクロップの口ぶりは、冒頭の試合後インタビューとは正反対に、珍しく重たく見えたものだった。
今季ここまで公式戦で計66ゴールを挙げてきたサディオ・マネ、モハメド・サラー、ロベルト・フィルミーノという"3本の矢"のうち2本が折れた状況で3点ビハインドのバルサ戦に臨むのだから、それも仕方のないことだった。試合後に明かしたところによれば、正直、さすがのクロップも「勝つのは不可能」だと思っていたらしい。
アンフィールドが作り上げた空気感。
それがどうだろうか。いざ選手たちがピッチに入場すると、あっという間にアンフィールドはひとつになり、不可能を可能にする空気感が生まれたのだった。
無念の欠場となったサラーは「NEVER GIVE UP」と書かれたTシャツを着てスタンドで試合を見守ったが、その言葉を選手とファンが見事に体現する。
ミラン相手に3点ビハインドを追いついた「イスタンブールの奇跡」や、'16年にドルトムントとのELで見せた大逆転劇に続く3度目の奇跡を成し遂げたのだ。