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真の王様はネイマールかムバッペか。
PSGとカタールが費やす大金と思惑。
text by
グレアム・バーガーGraham Berger
photograph byAFLO/Getty Images
posted2019/02/12 08:00
PSGの象徴となったネイマールとムバッペ。2022年W杯開催地であるカタールの思惑もそこにはある。
ウルトラスから不満の声明。
手段の詳細は明かされていないが、カタール人たちが創造性を発揮し、〈物事を首尾よく進めた〉ことは確かなようだ。ネイマールが'22年W杯の大会アンバサダーも務める見返りに3億ユーロを受け取るとする報道は、立証されていないとしても。
「いずれにせよ、カタールはネイマールのイメージを利用して自国開催のW杯を世に広められる」と『フランス・フットボール』誌のノタリアーニ記者は指摘する。「外交危機に瀕していたカタールが、マーケティングのクーデターを起こしたのだ」
ネイマールはフランスで順調なスタートを切った。初戦で1得点1アシスト、対戦したギャンガンのMFドーは「2億2200万ユーロは安いよ」とその技に魅了された。2月に負傷離脱するまで20試合に出場し、19得点13アシストを記録。リーグ最優秀選手にも選ばれた。
ただし、不快な後味も残った。前所属先のバルセロナは契約不履行を理由に850万ユーロを彼に請求し、同僚カバーニとの不仲説も根強い。重要な一戦で沈黙することもあるし、負傷もままある。
昨季終盤には怪我が癒えたにもかかわらず故郷で気儘に過ごし、クラブを去る可能性も囁かれた。優勝を決めたモナコ戦にも顔を出さず、不満を持ったウルトラスは気まぐれなスーパースターに「PSGという組織への敬意を求める」と声明を出した。
ムバッペを嫌う者はいない。
もうひとりのスーパースター、ムバッペは地元出身でもあり、彼を嫌う者はいない。パリ郊外のボンディで生まれたとびきりの新星は、1億8000万ユーロでモナコから引き抜かれた。ただしFFP対策のため、最初の1年はローンにして、移籍金の支払いをネイマールの分とずらした。
彼が育ったボンディは失業率の高いタフな地域だ。そんな故郷にはムバッペの壁画がある。ロシアW杯で大活躍し、母国の2度目の優勝に貢献すると、それは新調された。「'98年はフランスのフットボールにとって最高の年だ。キリアンが生まれたのだから」というメッセージが添えられて。
10代とは思えないほど地に足がつき、礼儀正しく、知的で寛大なムバッペはボンディの希望の星であり、PSGの──ひいてはカタールの──新しいシンボルだ。
「キリアンはフランスの若者たちの模範だ」とボンディのトマサン市長は『Le Parisien』紙に語った。「ハードワークと努力の象徴。彼は銀のスプーンが口に添えられるような環境で育っていない。成功を掴むために戦ってきたのだ。尊い価値だ」