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“底知れぬ男”長野久義へ――。
ある巨人ファンからの惜別コラム。
posted2019/01/08 12:20
text by
中溝康隆Yasutaka Nakamizo
photograph by
Kyodo News
「長野さんは九州が近くなる大阪だと、さらに球場人気が高いんだな」
2年前の夏、年に1度の巨人主催試合が行われる京セラドームの客席でそう思った。東京ドームではキャプテン坂本勇人の6番レプリカユニフォームやタオルを身につけたファンが一番多いが、京セラに来るとそれが「背番号7」グッズと双璧をなす。佐賀県出身のこの男は、それほどファンからの支持が高い選手だった。
年明け早々、巨人の長野久義がFA移籍した丸佳浩の人的補償として広島へ移籍することが発表された。年末に本連載で内海哲也の西武移籍について「ロジカルには理解できても、感情がついていかない巨人ファンも多いのではないだろうか?」と書いたが、入団以来9シーズンで計1271安打を放った生え抜き功労者の長野の流出にも同じような声が溢れている。
衝撃だった、デビュー後の3年間。
25歳でプロ生活をスタートさせた長野の巨人生活の始まりは完璧だった。
'09年秋に悲願の巨人ドラ1指名を受け、1年目からレギュラー定着するといきなり新人王、2年目にセ・リーグ首位打者に輝き、3年目には最多安打のタイトルを獲得。外野手としては'11年から3年連続でゴールデングラブ賞、シーズン最終戦にチーム40年ぶりの代打満塁逆転サヨナラ本塁打をかっ飛ばす勝負強さも誇るニュースターの出現。
なにせ入団から5年間の通算安打数767安打は、日本人選手としては長嶋茂雄や青木宣親を抑えてNPB歴代最多記録である。
こうなると、もちろん周囲はチームの軸を期待する。誰もが阿部慎之助の次は、坂本と長野の“サカチョーコンビ”に次代の巨人を託したものだ。
たぶん多くのファンはその背中に何かを見た。
大袈裟に書けば「希望」とか「未来」みたいなものだ。いつの時代もファンは球場で勝負だけじゃなく、夢を見る。