炎の一筆入魂BACK NUMBER
カープ優勝のために外したブレーキ。
鈴木誠也が戦う「あの日」の記憶。
text by
前原淳Jun Maehara
photograph byKyodo News
posted2018/09/28 11:50
シーズン30本塁打、そして昨年大ケガを負った鈴木誠也が敢行したヘッドスライディング。優勝への想いを感じさせるプレーだった。
「折れていると分かっていた」
「(野球人生が)終わったと思った」
病院へ向かうため、まだ応援歌が流れる横浜スタジアムを出た。何か悟ったように、表情は優しかった。
「折れていると分かっていた。分かっている結果を知るために病院に行きたくなかった」
鈴木の'17年シーズンは幕を下ろした。
あの日から6日目、右足脛骨内果骨折、三角靭帯損傷で骨接合術、靭帯修復術を受けた。素直に笑えない日々が続いた。病室のベッドで横になり、天井を見つめることしかできなかった。
ただ、鈴木を救ってくれたのはやはり野球だった。
1年後は必ずスポットライトを。
病室でチームメートの戦いを見守り、初めてファンと同じような気持ちで野球を見ていた。9月5日阪神戦の安部友裕のサヨナラ本塁打には、病院内に響き渡るほどの大声で喜んだ。
「初めて野球を見て鳥肌が立った。自分もすごいところでやっていたんだと思ったし、何を悩んでんだと思った」
2週間の入院を予定していたが、10日を待たずに病室を出た。
あの日から26日目、鈴木は再び笑顔で表舞台に現れた。右足をギプスで固定し、チーム関係者に両肩を支えられながら、遅れて胴上げの輪に加わった。
喜び半分、悔しさ半分。1年後は、必ずあのスポットライトの下に立つ。新たな目標を胸に刻んだ。
しばらく練習メニューは限られたものの、打撃練習再開が早かったことは幸いした。やれと言われなくても、やりたがる「練習の虫」。患部に影響のない範囲内ではあったものの、その量はリハビリの域を超えていた。練習に付き添ったトレーナーの苫米地鉄人は苦笑いする。
「本当、バッティング好きですよね。トレーニングルームにいるときも突然バットを握って、何か見つけた顔したりしますから。スイング量は(秋季キャンプ中の)日南より多いかもしれない」