炎の一筆入魂BACK NUMBER
カープ優勝のために外したブレーキ。
鈴木誠也が戦う「あの日」の記憶。
text by
前原淳Jun Maehara
photograph byKyodo News
posted2018/09/28 11:50
シーズン30本塁打、そして昨年大ケガを負った鈴木誠也が敢行したヘッドスライディング。優勝への想いを感じさせるプレーだった。
大ケガから1年後のサヨナラ弾。
そして、あの日からちょうど1年が過ぎた365日目。8月23日ヤクルト戦で鈴木は自ら苦い記憶を吹き飛ばす。
3点ビハインドで迎えた9回裏。丸佳浩の3ランで同点に追いついた直後、まだざわつきが収まらないスタジアムを熱狂させた。
石山泰稚のスライダーを捉えた、左翼席へのサヨナラアーチ。鈴木には珍しく「狙って打った本塁打」だった。あの日試練を与えた野球の神様から、1年間耐えてきた鈴木へのご褒美だったのかもしれない。
そして399日目。マジック1から2試合足踏みして迎えたヤクルト戦。1回に5点を先制して優位な展開とした5回。鈴木は三遊間へ弾んだ打球に、最後は一塁へ頭から突っ込んだ。
「先頭でとにかく塁に出れば後を打つ松山(竜平)さん、野間(峻祥)さんが返してくれると思ったので、自然と頭から行きました」
優勝への思いが今季制御してきたブレーキを外させた。
そして400日目。優勝翌日のヤクルト戦は欠場した。鈴木はまだ戦っている。ケガと、そして自分と。いつになれば、あの日と決別できるか――その日まで鈴木は戦い続ける。