炎の一筆入魂BACK NUMBER
カープ優勝のために外したブレーキ。
鈴木誠也が戦う「あの日」の記憶。
posted2018/09/28 11:50
text by
前原淳Jun Maehara
photograph by
Kyodo News
あの日から399日――。広島の鈴木誠也は、解放されたような表情を見せた。
喜び、安堵、そして達成感……。あの日からはとても、こんな瞬間を迎えられるとは思いもしなかった。誰よりも想像していなかったのは、本人だろう。人生初の骨折から過ごしてきた月日は、鈴木の野球人生に色濃く残る時間となったに違いない。
9月26日、マツダスタジアムは真っ赤に染まった。これまで何度も見てきた光景が、いつもと違った。27年間待ち続けた思いが充満していたのかもしれない。球団初の3連覇を'91年以来の本拠地で決めた。
マウンドに向かって広島ナインがベンチから飛び出すと、右翼の定位置で右手を上げた鈴木も、まずは二塁ベース付近で外野陣と喜びを分かち合い、そしてチームメートの輪に加わった。
「去年ケガをしてベンチの中から(優勝の瞬間を)見た。守っていて、去年ああいうことがあったなと思いながら迎えたので、感動したというか、すごいうれしかった」
会心のHRから悪夢の大ケガ。
入団1年目から着実に、順調にスター街道を歩んできた鈴木が昨年のあの日、突如として奈落の底に突き落とされた。
4番を任された'17年シーズン、実は納得できる打撃はできていなかった。その中で迎えた8月23日DeNA戦。1回表の打席で、ウィーランドの内角ストレートに詰まりながらもバットを振り抜いて左翼席に突き刺した。
「今年初めての感覚。やっといい感覚で振れた。ホッとした。これでシーズン乗り切れると」
ようやく掴んだ感覚。これでトンネルを抜けることができる。そう確信した直後の悪夢だった。
2回裏、戸柱恭孝の右中間への飛球を追った鈴木はジャンピングキャッチ。しかし着地した瞬間「ブチ」と何かが壊れる音が全身を走った。そのまま倒れ込むと、起き上がることができない。