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中田英寿を平塚に連れてきた男。
甲府の名スカウトが語る目利き術。 

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杉園昌之

杉園昌之Masayuki Sugizono

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photograph byMasayuki Sugizono

posted2018/07/24 17:30

中田英寿を平塚に連れてきた男。甲府の名スカウトが語る目利き術。<Number Web> photograph by Masayuki Sugizono

来季加入内定の中山陸(左)に声を掛ける森淳氏。プロビンチアの甲府にとって、敏腕スカウトの存在は何よりも大きい。

「ゲームに出ることが、一番」

 強い日差しが照らす6月下旬、ニッパツ三ツ沢球技場のスタンドにいた森スカウトは横浜FCvs.甲府戦を眺め、目を細めた。昨季のJ2得点王イバと互角以上に渡り合っていたのは、自らがスカウトした大卒2年目のDF小出悠太(明治大出身)と大卒1年目のDF今津佑太(流通経済大出身)だった。

「戦えていたね。2人とも試合を重ねるたびに伸びていると思う。ゲームに出ることが、一番。やっぱり、選手は育つね」

 小出は180cmに満たない身長ながら、当たりに強く、空中戦でも簡単には負けない。鋭いインターセプトは目を見張るばかりだ。

「僕のなかでは、大学ナンバーワンのセンターバックだったからね」とニヤリ笑う。

 試合が終わると、白いYシャツの襟を正して席を立ち、父親に連れられた高校生のもとに駆け寄った。来季、甲府への加入が内定している東海大相模高3年の中山陸を招待していたのだ。帰り際、新たな原石について聞くと、シャツの袖をまくり、声を弾ませた。

「初めて見たのは高校2年生だったんだけど、勝手に目に飛び込んできた。うおーって。スタンドから見ていて、こちらのイメージどおりにボールを動かすことができる選手はいい選手。想定外のことをして成功させるのがすごい選手。ピッチレベルでなぜ、あの視野を持っているのかな」

中田、中町以来の気持ちの高ぶりが。

 中山は174cm、64kgのMF。線の細い体は鍛える必要があると前置きした上で、仲間を輝かせるセンスは抜群だという。視野が広く、相手に囲まれても逆サイドが見えている。ぎりぎりで判断を変えられる点も惹かれたポイント。

「次の試合を見に行っても、わくわく、どきどきした。これが続いたんだよ。僕がスカウトとして一番大切にしているのが、この気持ちかな」

 '94年にスカウトをはじめ、数えられないほどの選手をプロの世界に導いてきたが、これほど気持ちが高ぶったのは、過去に中田と中町の2人だけ。

 そして、2001年生まれの中山の誕生日を知ったとき、運命を感じた。本当に偶然の一致なのか――。1月22日は、初めてスカウトした中田も生まれた日なのだ。つい「中田の再来か」と書きたくなるが、「タイプが違うからね」と一蹴。それでも、期待度が高いのは間違いない。

「まあ、来季見てください」

 できすぎたストーリーは、もうすぐ始まる。

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