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日本女子バレー若きエース候補。
黒後愛が“黒後愛”の殻を破るとき。
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph byShigeki Yamamoto
posted2018/07/10 16:30
シニア代表の本格的なスタートとなった今季。ネーションズリーグで黒後は中盤以降の試合でほぼフル出場を果たした。
打数を集めたほうが調子を上がるタイプ。
自分はこれでいいのか……。増えるのは迷いや不安ばかり。黒後は壁に当たっていた。
その姿を、下北沢成徳のチームメイトで現在は上尾メディックスでセッターとしてプレーする山崎のの花はこう見ていた。
「愛はもっと打数を集めたほうが調子を上げるタイプだと思うんです。考えて、考え込むとプレーが小さくなってしまうから、そうならないように決まっても決まらなくてもとにかく最初から打数を集めて乗らせる。そうすれば、絶対どんな場面でも決めてくれる。だからもっと愛に集めてもらえたほうがいいんだろうな、ってずっと思っていました」
ようやく1つ、きっかけをつかんだのが豊田でのオランダ戦だ。セルビア戦以来のスタメン出場の黒後は、自身に託された1本目のトスを思い切り打ち抜く。その攻撃を予測していた相手はややサイド寄りに構えていたため、結果的に正面で待たれる形となり、黒後のスパイクはきれいにブロックされた。
中田監督が語る「彼女しかない強さ」。
久しぶりのスタメン起用で何が何でも結果を出さなければならない。そこで立ち上がり早々のブロックポイントを食らえば、そのまま心が折れても不思議ではない。
だが黒後はその1本を、こう捉えていた。
「中途半端にやっても意味がないな、って。自分はまだシニアで始まったばかりだし、決まらなくて当たり前。どシャットされて、逆によかったって思えたし、ダメな時は悪いことしか出てこないけれど、でも、いいことだってある。だから引きずらないで前を向こう、って考えられるようになったし、みんながつないでくれたボールを思い切り決めるだけだ、と開き直れたので、やっと、トスも自分から呼べるようになりました」
決まっても、決まらなくてもトスを呼び、何度も攻撃に入り、迷わず勝負する。その姿こそが彼女の持つ魅力だと全日本女子監督の中田久美も言う。
「ものすごく細かく考えるところは考えて、でも勝負すべきところでは絶対に逃げない。強さとかパワーとか、そういうものだけではなく、彼女には彼女しかない強さがある。年齢も経験も関係ない。彼女に、このチームを爆発させてほしいと思っているし、それができる選手だと思っています」