野球のぼせもんBACK NUMBER
焦りと力みにハマる2000本安打地獄。
仕掛け人・川島慶三が内川聖一を救う。
text by
田尻耕太郎Kotaro Tajiri
photograph byKyodo News
posted2018/05/09 11:15
5月1日の出来事……サイレントトリートメントの後、チームメイトから熱い祝福を受ける内川。
では誰が最初にこれを仕掛けたのか?
「最初はアレ? と思いましたが、何か仕掛けてくるだろうなと。たぶん慶三でしょ」
さすが内川、ご名答だ。
1つ年下の川島慶三が打った瞬間にベンチ内で「サイレント、サイレント」と叫び、周りが瞬時にその意図をくんだのだという。
事前の打ち合わせなど一切なし。
内川のためにみんなが1つになった、本当に良いチームワークだった。
「若い選手がウチさんに気を遣っているんです」
それにしても川島は見上げた根性の持ち主だと思う。苦しむ先輩をイジるのは大変勇気のいる行動だったはずだ。
じつは、昨年も川島は、内川に対してこのような声掛けをしている。
「ウチさん、若い選手がウチさんに気を遣っているんです」
クライマックスシリーズ・ファイナルステージが始まる少し前だった。
内川はレギュラーシーズンで2度の故障離脱があり、リーグ優勝の瞬間もグラウンドに立てなかった。その負い目を感じ、「みんなのおかげで優勝出来た。恩返しをしないといけない」と意気込んでいた。しかし、気持ちばかりが先行して、空回り。調子が上がらずにイライラが募っていた。
「もともと感情の赴くままに野球をやっていた弱い人間です」と打ち明ける内川。それでも、4番打者となり、キャプテンとなり、自覚を持った行動をしっかり行ってきたはずだった。
「いろんな感情を自分の中で処理するのに一杯一杯で、乗り越えなきゃいけないと逆に必死になりすぎていた。それが気を遣わせる要因になってしまい本当に申し訳ないと感じました。
野球はチームスポーツ。自分が打っても負けは全員の負けだし、自分が打たなくても勝てば全員の勝利。そう考えるようになって、気持ちが少しラクになれた」
クライマックスシリーズ・ファイナルステージで4戦連続本塁打。日本シリーズ第6戦では土壇場9回に同点アーチを放ち、結果的に日本一の大きな原動力となった。
そして、川島自身もまた第6戦で日本一を決めるサヨナラ安打を放ち、しっかり存在感を示したのだった。