スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
ジダンは戦略家としても超一流に!
スターを外し、守備重視でPSG撃破。
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byGetty Images
posted2018/03/10 07:00
今季のレアルはCLを重要視するほかない。だが前人未到の3連覇を果たせば、ジダンの名声はさらに上がる。
ロッカールームにあるヒエラルキー。
確かに現役時代からペレスの寵愛を受けてきたジダンは、同様にペレスが心酔していたモウリーニョを除く歴代の監督たちと比べ、補強や選手の起用法においてそこまで制限を受けていない印象がある。
しかし、スター揃いのロッカールームには明確なヒエラルキーが存在する。それは複数のエゴが調和を保つために必要な「秩序」だと言ってもいい。
現役時代からそのことをよく知るジダンも、これまではチームに不協和音が生じるのを避けるべく、基本的にはヒエラルキーに則ったマネージメントを行ってきた。
就任1年目はイスコとハメスを外したことで実力主義を印象づけたが、その傍らで「BBCはアンタッチャブル」と公言してもいた。
2年目の昨季はレギュラー組とサブ組の格付けがより明確になった。巧みに両者のモチベーションを維持しつつ、「プランA」と「プランB」を併用してラ・リーガとチャンピオンズリーグの2冠を獲得するまではよかった。だが、その過程で不満をため込んだモラタやハメスらがオフに退団している。
リスクを恐れず、勝つための采配を。
そして今季、彼らの代役として補強した選手がレギュラー組を脅かすとは考えにくい若手有望株ばかりだった。それもあってチーム内競争よりヒエラルキー(=秩序)の安定を重視した選択であることを窺わせた。
しかし、今回は違った。
たとえ100%の状態になかったとしても、中盤の要であるモドリッチとクロースを起用しておいた方が、負けた場合に受ける批判は確実に小さい。
ファーストレグに続いてベイルを先発から外せば本人はあからさまに機嫌を損ねるし、メディアも食いついてくるだろう。ファンの絶大な人気を誇るイスコにも同じことが言えた。
それでもジダンはあらゆるリスクを恐れず、勝つための采配を全うした。そうやって手にした会心の勝利により、彼は今季残された最後の希望をつないだだけでなく、今季の不振により急落していた自身の評価を一変させることにも成功したのである。