Jをめぐる冒険BACK NUMBER
オシムと羽生直剛の師弟関係は今も。
「出会えた奇跡が嬉しいし、怖い」
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph byKiichi Matsumoto
posted2018/03/10 08:00
インタビュー取材に応じてくれた羽生直剛。朗らかな笑顔が印象的だった。
阿部ちゃん、羨ましかった(笑)。
――それは、先ほどの「100%でやれるかどうか」という話にもつながってきますね。
「そうですね。足が痛くて60%のパフォーマンスしか出せない選手が何を伝えられるのか。そういうふうにオシムさんに育てられたから、最後もオシムさんから学んだ指針に従ったということになりますね」
――ちなみに、オシムさんに引退を報告する機会はあったんですか?
「いや、ないんです。(日本代表時代に通訳を務めた)千田(善)さんが会いに行くとおっしゃっていたので、辞めたことだけ伝えておいてくださいって」
――阿部選手が今オフ、会いに行ったときのことですね。阿部選手がオシムさんに会いに行ったのは、やっぱり羨ましかったですか?
「羨ましかったですね(笑)。でも、ああいう取材の依頼に応じられるぐらい、オシムさんは元気なんだなって。僕も選手のスカウティングを兼ねて、今年中に会いに行きたいと思っています」
――では、現役生活で最も印象に残っている試合はどれですか?
「どうですかね……やっぱり最初にタイトルを獲ったときは、すごく嬉しかったかな」
――2005年のナビスコカップ(当時千葉)ですね。ガンバ大阪と決勝を戦い、0-0のままPK戦にもつれ込みましたが、あの試合ではPKを蹴ったんでしたっけ?
「いや、蹴ってないです。前半で交代しました(笑)」
――前半って、延長戦の前半ですか?
「いや、90分の前半。内転筋を傷めて、100%でプレーできなかったので。たしか工藤(浩平)と代わったんじゃないかな。だけど、オシムさんが喜ぶ姿を見たかった。みんなその想いで戦っていたと思います」
――以前、阿部選手も「この人にタイトルをプレゼントして笑顔にさせたい、という想いで戦っていた」と話していました。
「そうなんですよね。普段は険しい顔ばかりしていて、ああいうときじゃないと笑わないから。胴上げは拒まれてしまったけれど、すごく嬉しそうだったのは覚えています。ああいう場じゃないと水を掛けたりもできないので、ここぞとばかりに掛けたけど、ビシャビシャにしたら怒られると思って、軽めに(笑)」