Jをめぐる冒険BACK NUMBER
オシムと羽生直剛の師弟関係は今も。
「出会えた奇跡が嬉しいし、怖い」
posted2018/03/10 08:00
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph by
Kiichi Matsumoto
2017シーズン限りでプロサッカー選手としての生活を終えた羽生直剛氏。Jリーグ各クラブで活躍した彼のキャリアを語るうえで外せないのは、イビチャ・オシムの存在だ。
ジェフユナイテッド市原・千葉で見いだされ、「考えて走るサッカー」を体現したプレースタイルは、ジェフ時代、そして日本代表と多くのサッカーファンに知れ渡ることになった。
引退に寄せてのインタビューを敢行した際、なくてはならない恩師の存在について彼は「幸せなことだったのか、分からなくなってきた」と語っていた。その本心とは――。
「お前はそのプレーで満足させられたのか?」
――え、どういうことですか?
「偉大すぎて、自分もああなりたいと望んでもなれない、自分がちっぽけだということを思い知らされるだけだし(苦笑)、トレーニングひとつとっても、内容がすごく濃かったから、その後、どうしても物足りなさを覚えてしまって。もしオシムさんと出会っていなかったら、その後のどんな練習、どんなサッカーにも充実感を覚えていたかもしれないわけで……」
――オシムさんと出会えた幸せから一周回って、今は幸せなのか、不幸なのか分からなくなってきた?
「そう(笑)。ヨーロッパでも、オシムさんが退任したあとはペンペン草も生えない、みたいなことを話すらしくて、偉大すぎて、いなくなったあとの喪失感がすごかったり、どう継承していくか迷ったりするみたいです。
僕自身、今もこうしてオシムさんの話をさせてもらっているけれど、引退して改めて、オシムさんと出会わなかったら、自分の人生はどうだったのかなって考えると、出会えた奇跡が嬉しくもあり、ちょっと怖くもある(笑)」
――でも、羽生さんも38歳まで現役を続けたし、阿部勇樹選手、巻誠一郎選手、佐藤勇人選手と、当時の中心選手が今も現役を続けているのは、やっぱりオシムさんに引き上げてもらった、というのがあるんじゃないかと思いますが。
「どうなんですかね。でも、みんな走ることを厭わないし、攻めるのも守るのも全力でやる選手たちでしたね。オシムさんに『ファン・サポーターは、サーカスみたいなプレーを見に来ているんじゃない。勝っても負けても闘う姿勢を見に来ているんだ』ということを叩き込まれたし、その考えは今も生きる指針というか。
例えば、その日の観客の中には初めてサッカーを観る方がいるかもしれないし、お金をためて1年に一度の観戦を楽しみにして来た方もいるかもしれない。そんな人たちに対して、オシムさんは『お前はそのプレーで満足させられたのか』と問うてきたし、オシムさん自身、チームのパフォーマンスがプロの興行として相応しかったのか、すごく気にする人でした。だから、自分もそれをすごく意識するようになった」