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石川直宏と佐藤由紀彦が今語ること。
出会い、FC東京愛、そして引退――。
text by
馬場康平Kohei Baba
photograph byAsami Enomoto
posted2017/11/30 17:00
現在のJリーグを見渡しても、FC東京にとっての石川直宏ほど「バンディエラ」という言葉が似合う選手がどれほどいるだろうか。
佐藤「コーチの徹さんの言葉はスゥーっと入ってくる」
石川「僕は、ユキさんと違って決して調子が良くはなかった。でも、自分がもっとこうしたいというイメージがあった。当時はコミュニケーションの取り方もうまくなかったから、うまく口で説明できないいら立ちもあってモノに当たってしまった。最低ですね」
佐藤「いいね、普段とのギャップが。へぇーそうなんだ。でも、それが2人共26歳だったというのがすごいね」
――そして、2人を救ったのも同じ人物でした。当時、コーチの長澤徹さん(現・岡山監督)は、あふれんばかりの2人のエネルギーを受け止め、親身になって話を聞いてくれたそうですが、2人にとってはどんな存在でしたか?
佐藤「テツさんは、今まで出会った指導者とは入り口が違っていた。接し方や、アプローチの仕方がまるっきり違う。今、僕も指導者になって参考にしているところがあります。
まず、『お前はどう思う?』と言って、こちらの主張を全て吐き出させた上で、自分の意見を言うんです。だから、スゥーッと言葉が入ってくる。でも、いきなり俺はこう思うぞと言われたら、僕は持っている意見を言いますが、胸に抱えて吐き出せない選手もきっといると思うんです。たかが数秒のシンプルな会話であっても、そういう存在はありがたいんですよ。
当時、僕は札幌との試合後に空港ですぐ電話して『テツさんやっちゃいました、俺』って話したら、『大丈夫だよ』って言ってくれたんです。『でも、いや多分、3カ月は引きずると思います』ってやりとりをして東京に帰ってきて休み明けに会った時に、原さんから話を聞いたんでしょうね、『お前やっちゃったみたいだな』って笑顔で言って話を聞いてくれた。その時も、『何でそんなことになったの?』って自分が思っていたこと全てを吐き出させてくれた。僕にとっては、そうやって受け止めてくれる唯一の指導者でした。
その件があって以降、よけいにもっとトレーニングに励もうと思えるようになったし、そのきっかけを与えてくれた人です。その時、テツさんが僕に言ってくれたのは『今すぐに結果は出てこないかもしれない。でも、継続すれば必ず報われる』という言葉だった。だから励めたし、翌年にマリノスでリーグ優勝できたのだと思います」
石川「僕も切り口は、まさにそのままですね。全て自分の想いを吐き出させてくれる。最初は頷いているだけなんだけど、本当に順を追っていろんなことを話した。サッカーの話以外にもプライベートなことまで話をしていました」
――僕が取材してきた中でも、不思議な魅力を持った指導者ですよね。自分が主張したいことがあると、どうしても人は身ぶり手ぶりが大きくなるんだけど、テツさんは腕を組んだままで、自分が思うことがあってもそれを解かないんですよね。
佐藤「もう、仙人だよ(笑)」
石川「ですね」