フランス・フットボール通信BACK NUMBER
サポーターを蹴り上げて出場停止!!
エブラとカントナ、その激情の世界。
posted2017/11/28 08:00
text by
クリストフ・ラルシェChristophe Larcher
photograph by
Stephane Mantey - Action Images/Panoramic
11月2日、パトリス・エブラがヨーロッパリーグのギマラエス対マルセイユ戦でマルセイユサポーターに回し蹴りを喰らわせた事件は世界中に衝撃を与えた。
試合前の退場、しかも自分たちのクラブのサポーターに暴行を加えての退場など、ヨーロッパリーグではもちろん大きな国際大会でも前代未聞である。
『フランス・フットボール』誌11月7日発売号ではクリストフ・ラルシェ記者がこのエブラの事件と、今から20年以上前の1995年、エリック・カントナがマンチェスター・ユナイテッド対クリスタルパレス戦で相手サポーターにカンフーキックを見舞った事件を比較検証している。
ふたつの暴行事件は何が共通していて何が異なっているのか。共通項が多いように見えるふたつの事件の違いを、ラルシェ記者が浮き彫りにする。
監修:田村修一
大観衆に囲まれても冷静な2人が、なぜ爆発したのか?
20年以上の時を隔てて、ふたりの頑固者がサポーターに向け乱暴に足をあげた。
一見、ふたつの行為は似通っているように見える。だが、その状況はまったく異なっていたのだった。
鞭がしなるような高速左回し蹴りと、相手の胸を突きさすカンフーキック――22年という長い時間を隔ててふたりのフランス人サッカー戦士は、日ごろの悲惨な生活から一時的に逃れようとスタジアムにやってきたサッカー好きの1人の観客を黙らせるために、高度な格闘技の技を駆使したのだった。
母親への侮辱と、止むことのない罵詈雑言の数々――1995年1月25日にエリック・カントナがレフリーへの暴言からレッドカードを受けてセルハースト・パークのピッチを去るとき、頭の中は怒りで沸き立っていた。
一方のエブラはこの11月2日もベンチスタートの身に甘んじながら、成し遂げた栄光がすべて過去のものに過ぎなくなった悲しい現実と向きあえずにいた。
メジャーな国際大会で熱狂の坩堝と化した6万人もの観客の前でも、外科医のような冷静さを保ち続けることができる彼らほどのアスリートでありながら、なぜ2人は、ごくありふれた試合で我を失いごろつきと化してしまったのか……。